【書籍化決定】推しの育て方を間違えたようです~第三王子に溺愛されるのはモブ令嬢!?~
「姉……さん……?」
「いくら従弟でも、わたくしをダシにみんなを呼ぶなんて間違っているわ」
ビルが男たちをどう唆したのかはわらない。
しかし、ミレイナと仲良くなることができれば、エモンスキー家やセドリックとの繋がりが作れるかもしれないと考えるのは、ごくごく普通のことだろう。
責任感の強い人間ならば、家のことを考えて遠路はるばるやってくることも厭わないかもしれない。
たとえ、ミレイナのことを好きでなかったとしても。
「でも、俺は姉さんのことを思って……」
「嘘。わたくしのことを思ってくれているなら、こんな計画秘密にしないはずよ」
紹介したい友人がいることは、以前聞いている。
しかし、わざわざ王都から片道七日もかかる場所に一同を呼び出すとなれば話は別だ。
馬車で七日。軽い気持ちでは決断できるものではない。往復で最低でも半月は家を空けることになるということだ。
ビルから招待された男たちは、王都で活躍する人ばかり。無理をしてここに来たに違いない。
「ごめん……。サシャが最近、俺と姉さんの関係を心配しててさ」
「サシャさんが?」
「うん。最初は『殿下と結婚するのでは?』って噂もあったからよかったんだけど、最近突然婚活を始めただろ? それで、余計サシャが心配しちゃって。……姉さんに婚約者ができれば安心するかと思ったんだ」
「それで、フレソンさんや他の方を紹介しようと思ったの?」
「ここ数年、姉さんを紹介してほしいって色んな人に頼まれててさ……。姉さんに婚約者ができればサシャも安心するだろうし……」
ビルの語尾はどんどん弱くなっていく。
ミレイナは彼のことはずっと弟のように思って接してきた。年が二歳しか離れておらず、同じ王都に住む従弟はビルだけだったからだ。
兄弟がいないビルはミレイナとウォーレンによく懐いていたし、悪い気はしなかった。
けれど、やはり従弟は従弟でしかない。いくら姉弟のように育ったとしても、二人は結婚可能な関係なのだ。
遠く離れた場所に住む婚約者が不安になるのも理解できる。
「俺、よかれと思って……」
「ビルは間違っているわ。あなただって本当はわかっているのでしょう?」
「姉さん……ごめん」
「謝る相手が足りないわ。行きましょう」
ミレイナはビルの腕を掴むとまっすぐサシャの元へと歩き出した。きっと、今だって不安になっているはずだ。