【書籍化決定】推しの育て方を間違えたようです~第三王子に溺愛されるのはモブ令嬢!?~

 年がら年中、セドリックの元に足繁く通っている身としては、まったく記憶になかった。何かをお願いするにしても、夏のバカンスの予定をなしにするほどのことなど頼んだ記憶はない。

 ミレイナが首を傾げると、ビルの頬が引きつった。

「……ビル、どういうこと? 夏に来られなかったのはミレイナお姉様の用事だって手紙に書いていたじゃない?」
「そ、それは……。何かの手違いでなくなったというか……」

 ビルの声は尻すぼみになっていった。

「つまり、ビルはわたくしを理由にして、サシャさんに会いに来ていなかったということね」
「それは……! その……ごめん」
「わたくしに謝られても困るわ。これはあなたとサシャさんの問題でしょう?」

 誤解が解けたのであれば、これ以上の介入は不要だ。
 人の恋路に口出しができるほど、ミレイナは経験豊富ではなかった。

「わたくしは帰るから、二人で話し合ってね。サシャさん、ビルのことで何かあればエモンスキー家が助けますから、いつでも連絡してちょうだい」

 ミレイナはサシャの手を握りしめ、笑みを浮かべた。
 ビルの婚約はエモンスキー家には関係がない。しかし、ここまで関わって「何も知らない」と突っぱねるほどミレイナは冷徹にはなれなかった。

「待ってよ、姉さんっ! 俺のためにももう少しパーティー会場にいてよ……」

 ビルはミレイナの腕を掴んで、弱弱しい声で言った。
 みんなにはなんと言ってこの場所まで呼び出したのだろうか。

 ミレイナは苦笑した。
 悪さをしたあとの子どもみたいな顔だったからだ。

「もう大人なのだから、後始末は自分でつけなさい。きっと、叔父様と叔母様もそう言うと思うわ」

 ビルは目を見開いた。
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