【書籍化決定】推しの育て方を間違えたようです~第三王子に溺愛されるのはモブ令嬢!?~

 ミレイナがビルを見放すとは考えてもいなかったのだろう。

 ビルは一人っ子であり、跡取りだったから、叔父や叔母に大切に育てられた。そして、ミレイナやウォーレンも弟のように可愛がってきた。

 少し、甘やかしすぎたのかもしれない。

 ビルは床に膝をついて呆然とミレイナを見上げた。

「そんな……。俺、ここに来れば殿下がいないから、みんなが姉さんと話す機会ができるって言っちゃったんだ……」

 ミレイナは膝を曲げてビルに視線を合わせる。そして、優しく微笑んだ。

「そう。なら、きちんと『嘘でした。ごめんなさい』と謝って回りなさい」

 ビルはそれ以上何も言わなかった。諦めたと取っていいだろう。ミレイナはサシャにもう一度挨拶をしたあと、颯爽と出口に向かって歩いた。

 いつの間にかオーケストラの音楽すら止まっている。誰もが呆然とミレイナの歩く姿を目で追う。

 ミレイナは人前で従弟を叱りつけた興奮と羞恥でいっぱいいっぱいだった。

「ミレイナ嬢! 屋敷までお送りする権利をいただけませんか?」

 誰もが動きを止める中、アンドリューがミレイナを追って走ってきた。彼はどうしてもミレイナとの縁を繋げたいらしい。

 彼の金の髪が揺れるたびに、セドリックの変装したときの姿を思い出す。
 どこからか、花が香った。

(金髪も殿下のほうが似合っていたわ)

 早く、セドリックに会いたい。こんな男を相手にしている暇はなかった。
 セドリックに会いに行くには今後の予定を変更し、帰宅の準備をしなければならないのだ。

「わたくし、心は狭いほうですの」
「私ならどんなあなたも受け止められます」
「でしたら……。前世からやり直していただけますか?」
「……へ? 前世?」
「ええ。前世からやり直して、わたくしが“推し変”するくらい素敵な男性になってからお会いしましょう?」
「お、おしへん……?」

 困惑するアンドリューにミレイナは満面の笑みを浮かべた。
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