推しの育て方を間違えたようです~推し活に勤しんでいたら、年下王子の執着に気づけなかった~
罰ゲームだったとしても、ミレイナが本当に口づけてくれるとは思っていなかったのだ。ただ、少しセドリックのことを男として意識してほしいと思っただけ。
「殿下、顔が緩んでおりますよ」
「うるさいな」
「そんなお顔でミレイナ様に会うほうが嫌でしょう?」
これからミレイナが来る予定でなければ、追い出していただろう。
セドリックは「これ以上おまえの話は聞きたくない」と言う代わりに本を開いた。
(早くミレイナに会いたい)
その日、セドリックの期待を裏切るように、ミレイナではなくエモンスキー家から使いが現われたのだった。
舞踏会から七日が過ぎた。体調を崩したミレイナと会うことは許されず、セドリックは悶々とした日々を過ごしている。
ミレイナは子どものころから身体が弱く、時々風邪を長引かせていたからいつものことだろう。
舞踏会の日、夜風に当たり過ぎたせいかもしれない。
無理にでも会いに行きたい気持ちはあったが、わがままを通せばまた子ども扱いされかねない。ミレイナには大人の男として、恋愛対象として見られたいのだ。
王宮の医師を引き連れてエモンスキー家に乗り込みたい気持ちをなんとか抑え、見舞いの花を送るだけにとどめておいた。
公務を任されるようになってからというもの、忙しくない日はない。けれど、ミレイナとの時間になるとセドリックは休憩とばかりに執務室から逃げ出した。
もしかしたら、今日はひょこり顔を出すかもしれない。そう思って。
しかし、今日も従者は「まだ体調が戻られてないみたいですね」と現実を突きつけるのだ。
セドリックはミレイナと二人で見て回った庭園を一人で歩いた。従者には「まさか殿下が散歩に出るなんて」と大げさに驚かれたが。
あの夜。ミレイナは花に誘われる蝶のように、美しい花を見つけてはひらひらと飛んで行った。
ベスタニカ・ローズ。王家の薔薇。花には興味がなかったが、ミレイナが楽しそうに語っていたので調べてみた。
この庭園にしか咲いていない薔薇なのだというのは本当のようだ。