推しの育て方を間違えたようです~推し活に勤しんでいたら、年下王子の執着に気づけなかった~
「あ、あの……。すみません」
弱々しい女の声が薔薇の向こう側から聞こえる。
すぐに女が顔を出した。
(あのときの女か)
仕方なくダンスの相手に選んだ女だ。舞踏会の時以上に粗末な服を着ている。
名は知らない。興味もなかったから聞いてもいない。
「この庭園は許可がないと入れないはずだけど?」
セドリックは冷たい声で言った。
「勝手に入ってしまってすみません……。悪気はなかったんです!」
女は慌てたように言うと、深々と頭を下げた。ピンクブロンドの髪が揺れる。彼女に悪気があるかないかには興味がなかった。
セドリックが従者に視線を向けると、彼は心得たように女の腕を掴む。
「あっ! あのっ! 話を聞いてくださいっ! 私、ここの薔薇が必要で……!」
「君の事情には興味がない」
セドリックはミレイナとの思い出に浸っていたところに水を差され、苛立っていた。セドリックは冷ややかな気持ちで女を見下ろす。
「お願いします! 一輪だけでいいんです。そうじゃないと、私……家を追い出されてしまいます……!」
従者に強く押さえつけられてもなお、女はセドリックに叫び続けた。
「へぇ」
「病気の姉が、王宮の舞踏会に行けなかった代わりに王宮の薔薇が見たいと……。あの……。私はエント家に引き取られたシェリーと申します」