【書籍化決定】推しの育て方を間違えたようです~第三王子に溺愛されるのはモブ令嬢!?~
「十歳差なんて普通だろ? 父上と母上は二十歳離れている」
「それは陛下が二度目のご結婚だからですよ。まあ、貴族の政略結婚だと十歳差くらいなんてことないんですけどね」
従者は口ごもる。二時間のあいだに随分と絆されたようだ。よほど、シェリーの身の上話は従者の心をわしづかむほどの辛く悲しいものだったのだろう。
彼は涙もろい。
異母兄弟たちに馴染めずにいるセドリックに、王宮内で一番心を砕いているのは彼だろう。実際にはただ面倒なだけなのだが、それを彼にわざわざ言うつもりない。言ったところで、彼は持ち前の思い込みの強さで「きっと殿下は強がっているのだろう」と思うのは火を見るより明らかだった。
つまり、彼は一度思い込んだら止まらないところがあるということだ。シェリーに関してもそれは例外ではないはず。
「別に恋愛は自由だから好きにしたらいいだろ?」
「そういうわけにはいきませんよ。シェリーさんは義姉の代わりに結婚して、エント家を支えていかなければならないんですから」
「なら余計都合がいいじゃないか。おまえは五男で継ぐ家もないからってここにいるんだからさ」
従者は照れたように笑いながら「まあ、そうなんですけどね」と言った。照れる意味がわからない。しかし、従者がシェリーと結ばれるのはセドリックとしても好都合だった。セドリックでは彼に与えられる爵位は一代限りのものだが、エント家の婿養子になれば話が変わってくる。
そして、彼女ができればセドリックへのお小言も、少しは減るだろう。
「あ! そうでした。殿下宛に手紙が届いていましたよ」
「どうせ夜会の招待状だろ? 興味ない。断りの返事を出しておいて」
ミレイナが行かない夜会に行って何の意味があるというのか。しかし、従者はニヤニヤと君の悪い笑みを浮かべた。
「いいんですか? そんなこと言って」
「……何が?」
「今日の手紙は招待状じゃなくて、ミレイ――」
セドリックは従者が言い終わる前に、彼女からの手紙を奪い取った。
「まったく。そんなに焦らなくても手紙は逃げて行きませんよ」
従者はブツブツと小言を言うが、セドリックは耳を傾けることなく手紙を開いた。