推しの育て方を間違えたようです~推し活に勤しんでいたら、年下王子の執着に気づけなかった~
「理由は知ってる」
「なんですか?」
「賭けの罰ゲーム。ミレイナはそう言っていた」
理由自体は間違いないだろう。ダンスの途中で脛を蹴ったことに対する贖罪だと考えていてもおかしくはない。
しかし、例え罰ゲームであれ、好きでもない男の頬に口づけるだろうか。
従者は「うーん」とわざとらしく唸った。
「普通に考えて、嫌いなら罰ゲームを回避したんじゃないですかね。まあ、客観的にミレイナ様は殿下のことは嫌っていませんよ。それはわかります」
彼の言葉に、セドリックは満足そうに頷く。しかし、すぐに彼は「でも」と話を続けた。
「まあ、でも弟だと思っている可能性もありますからね」
「……弟」
セドリックは低い声で従者の言葉を反芻した。弟と言われるのが一番嫌いだ。ミレイナを姉だと思ったことはないし、姉のように接したこともない。
姉弟のようだと言われたくなくて、背が伸びる方法を必死に調べたこともある。
「ミレイナ様は殿下の十歳から知っておりますから」
「でも、僕はもう十八だ。身長だってミレイナより高いし、仕事もしてる」
ミレイナを守れるだけの力も知識もつけたというのに、十歳からの付き合いだからという理由で恋愛対象として見られないのは理不尽だ。
「まあまあ。この薔薇を見たら、ミレイナ様も殿下の本気度を理解しますって。陛下を説き伏せるのに頑張ったんですからね」
セドリックは口をへの字に曲げると、窓の外を見た。森の中を駆けているせいか、景色はほとんど変わらない。
ベスタニカ・ローズの香りだけが充満する中で、セドリックは小さく頷いた。
王族の薔薇を持ち出すのには許可がいる。それは王子であるセドリックも例外ではない。本来ならば、薔薇が咲く時期までに許可を取り準備するものだという。しかし、来年まで待てないと何度も父の元に通い、頭を下げたのだ。