推しの育て方を間違えたようです~推し活に勤しんでいたら、年下王子の執着に気づけなかった~
ふだん我儘を言わない末の息子の我儘に、父である国王はひどく悩みながらも許可をしたのだった。
詳しく聞けば、ベスタニカ・ローズを使ったプロポーズは、王族として正式な結婚の申し込みとなるらしい。
その薔薇を受け取った瞬間、二人は婚約を結んだのと同じと考えられるのだ。
どんなに鈍感なミレイナでも、そこまですればセドリックの本気を理解するだろう。
軽い気持ちでミレイナに思いを伝えていないのだと理解してもらえれば、それだけでよかった。
もちろん、一番はその薔薇を受け取って、セドリックのプロポーズを受けてもらうことではあるが。
「もっと馬車は速められないのか?」
「今、全速力ですよ。そのせいで私の胃の中はぐちゃぐちゃです」
「馬車の中で吐くなよ」
「はあ……。もっと優しい主人に仕えたい……」
従者は目元を押さえて、馬車の窓にもたれかかった。
休憩を取った街で、食事を摂っている際、従者はセドリックに一枚の紙を渡す。
「殿下、調べさせていた結果が届きましたよ」
セドリックは報告書を読んで眉を寄せた。
王都を出る前、ここ数日でフリック家の領地に旅行に出た貴族がいないか調べさせたのだ。
報告書には十数名の貴族の子息たちの名前が並んでいた。
全員が、二十代の未婚の男たちだ。
「偶然にしては多いですよね」
「偶然なわけないだろ?」
フリック家の領地がいくら観光地だとしても、同じ日にこれだけの人数が移動することはあり得ない。
「来て正解だった」
セドリックは不機嫌な顔のまま、報告書を握り絞めた。食事も半ばだったが、馬車へと向かった。
「急ぐ」
「……そういうと思ってました」
従者は苦笑を浮かべ、セドリックの後を追ったのだ。