推しの育て方を間違えたようです~推し活に勤しんでいたら、年下王子の執着に気づけなかった~

第七話 エデンの丘

 七日かけて辿り着いたフリック家の領地に降り立ったとき、ミレイナはゆっくりと息を吸い込んだ。

 幸い、馬車には酔うことなく七日の旅路を終えることができた。しかし、道はずっと舗装されているわけではなかったため、馬車はひどく揺れた。エモンスキー家が所有する一番いい馬車を使ったが、お尻と腰は大打撃を受けたのだ。

 ふだん出かけ慣れていないミレイナには耐えがたい七日となった。

(もう二度と遠出なんてしないわ……)

 セドリックから逃げた罰が当たったのだろうか。

「はあ……。死ぬかと思った……」

 別の馬車から出て来たビルは情けない声を上げた。顔は青ざめ、げっそりとしている。
 ビルは馬車酔いがひどい体質のようで、初日から休憩のたびに青いを顔をミレイナに見せていた。

「あら……大丈夫?」
「はは……。天国が見えたよ」

 遠いとはいえ、ビルがあまり婚約者に会いに行かないのが不思議だったのだが、一番の原因は馬車酔いだろうか。

 彼は胃の辺りをさすりながら、うずくまった。

「ビルッ!」

 高く可愛らしい声が聞こえ、ビルは顔を上げた。愛らしい少女が駆けてきている。

「サシャッ!」

 慌てて立ち上がったビルの胸に少女は飛び込んだ。

「いらっしゃい! 会いたかった!」

 少女は人目をはばからず、ビルの頬に口づけをする。その熱烈な歓迎に、同行していた護衛や侍女たちがみんな視線を逸らした。
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