推しの育て方を間違えたようです~推し活に勤しんでいたら、年下王子の執着に気づけなかった~
先ほどまで今にも死にそうだったビルの顔は色を取り戻し、笑顔を浮かべる。
「サシャ、紹介するよ。エモンスキー公爵家の令嬢であるミレイナ姉さん。姉さん、彼女が俺の婚約者のサシャ」
ビルに紹介され、サシャが慌てて姿勢を正す。そして、淑女らしい礼を見せた。
「ビルからお話は伺っております。ずっとお会いしたかったので嬉しいです。サシャ・フリックと申します」
「わたくしもサシャ様のことはビルからたくさん伺っているわ。今回はご招待いただきありがとう」
「ミレイナ様、私のことはサシャと呼んでください」
「では、わたくしのこともミレイナと」
「とんでもない! エモンスキー公爵家と言えば、雲の上の方ですから。本来なら私のような子爵家がお話をできるような身分ではありません」
「そんな気負わないで。偉いのはお父様や今までエモンスキーを守って来た方々で、わたくしではないもの」
ミレイナはたまたまエモンスキー家に生まれただけで、家には何も貢献していない自信がある。
兄が騎士として王太子の側に仕えているあいだ、ミレイナは推しのことを追いかけてばかりいた。
サシャは目を皿のように見開くと、感嘆の声を上げる。
「ミレイナ様はお美しいばかりではなく、謙虚でいらっしゃるのですね」
「お世辞なんて言わないで。困ってしまうわ」
「お世辞じゃありません。本当のことです。ミレイナ様がお美しいのは、この田舎領地にも噂が回ってくるほどですから! 社交界に妖精がいるって」
「多分、別の方のことだと思うわ。わたくし、あまり社交場には出ていなかったから」
美しい令嬢はたくさんいる。噂とはたいていねじ曲がっていくものだ。きっと、サシャの耳に入った噂もそのようなものだろう。
「あの……。もしよろしければ、ビルのように『ミレイナお姉様』とお呼びしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。妹ができたみたいで嬉しいわ」
ミレイナは、サシャの手を取って笑みを浮かべる。すると、彼女は顔を真っ赤にして喜んだ。