推しの育て方を間違えたようです~推し活に勤しんでいたら、年下王子の執着に気づけなかった~
胸をさすっていると、扉が叩かれる。「どうぞ」と答えると、扉の奥から現れたのは、ビルとサシャだった。
「姉さん、ちょっといい?」
「どうしたの二人揃って」
サシャは部屋に入ってすぐミレイナに招待状を差し出した。
「実は明日、ミレイナお姉様の歓迎パーティーを企画しているのですが、来て頂けませんか?」
「歓迎……パーティー?」
「パーティーと言っても、王都と違ってこじんまりとしたものなんです」
「嬉しいけれど、気持ちだけ受け取っておくわ」
今はパーティーに参加するような気分ではなった。せっかく王都から離れたのだから、ゆっくりしたいというのが本音だ。
それに、こんな田舎のパーティーでエモンスキー家の令嬢が参加したら、みんなも気兼ねなく楽しめないだろう。
「少し顔を出すだけでもいいから来れない? サシャが初めて最初から最後まで企画したんだ」
ビルの言葉にサシャが何度も頷く。二人に見つめられて、ミレイナは「いや」とは言えなかった。
「……本当に少しだけよ?」
結局、二人の押しに負けて、頷いてしまったのだ。
ミレイナは二人が帰ったあと、セドリックへの手紙の続きを書いた。
田舎に来てもパーティーに参加すること。少しだけ憂鬱なこと。
書きながらセドリックの社交デビューの日を思い出し、何度も筆を置いた。ただの罰ゲームだというのに、あの時の感触がいまだ忘れられない。
ミレイナは手紙を書き終えると、アンジーに手渡した。
「これを荷物と一緒に送ってほしいのだけれど」
フリック家の領地へ遊びに行くことを、両親に報告したときにお使いを頼まれたのだ。その中には急ぎ必要な物もあったため、今日の夜のうちに出発するのだという。