かつて神童と呼ばれたわたしも、今では立派な引き籠りになりました。ですので殿下、わたしを日の当たる場所に連れ出すのはお止めください!
【10】はぁ、とてもスッキリしました
「あ……ああ……こ、これは……」
レイト様は、口を開けて唖然としていた。
それもそのはず、学院に着くや否や、わたしは一切加減することなく全力全開の七属性同時魔法、つまり虹魔法を発動し、たったの一秒で校舎をぶっ壊したのだ。驚くのも無理はない。
「り、リリア、きみは何を……」
「ご安心ください、レイト様。誰一人怪我していませんので」
その言葉の通り、校舎内に居たであろう学生や先生たちは、瓦礫の中に埋もれながらも何事もなかったかのように外へと出て来る。
「無事……? これはどんな魔法を使ったんだ……」
「ただの防御魔法ですよ」
七属性の魔法を同時に発動し、校舎を崩壊させたと思っているかもしれないけど、実際には少し異なる。七属性のうち、風属性と光属性の魔法は攻撃魔法ではなく防御魔法として発動していたのだ。
対象となるのは、校舎内に居る全ての生物だ。
人間だけだと、犬や猫が対象外になってしまうので、とりあえず丸ごと一括りにしてみたけど、問題なく発動することができた。
一人一人の体を覆うように、風属性の防御魔法が張られている。
同時に、心に傷を負うことがないようにと、穏やかな状態を保つために必要な状態異常に特化した光属性の回復魔法を掛けている。故に、心も体も全くの無傷だ。
「あ」
とここで、瓦礫を押し退けながら、見覚えのある顔が出てきた。
「カロメ……」
――カロメ・グリストラ。わたしを孤独にさせた張本人だ。
「はあっ、はあっ、なんなのこれ? いったい何があったわけ? って、リリア!?」
目を合わせると、途端にわたしを睨み付けてズカズカと近づいてくる。
思わず拳を作り、息を呑む。だけど今のわたしは一人じゃない。隣にはレイト様が居る。
だから何も怖くなんてない。
「リリア! どうしてあんたがここにいるのよ! あんたは高等部に進めなかったはずよ! っていうか、まさかこれ、あんたがしたんじゃないでしょーね!」
「だったら、どうするの?」
「どうするですって? ふざけたこと言ってんじゃないわよ! ちゃんと責任取れって言ってんのよ! 今すぐ土下座! このあたしに土下座して詫びなさい!!」
ここにいる全ての人たちが、わたしたちのやり取りを傍観している。
他の人たちは理解しているのだろう。でも、カロメはわたしのことが嫌いすぎて、頭が追いついていないようだ。
学院の校舎を粉々にしたのがわたしだとすれば、その力は恐らくここに居る誰よりも強力で太刀打ち不可能だということを。
だけど、それを教えてあげるほど、今のわたしは優しくない。
だから代わりに、一つだけ言葉を贈ろうと思う。
「カロメ。わたしから貴女に言っておきたいことがあるの」
「はあっ? 何よ、あたしへの謝罪なら早くしなさいよ! もちろん土下座よ! ほら、地面に額を付けてごめんなさいって言いなさい!」
「違うわ」
さらっと否定する。
そしてわたしは、カロメに向けて右の手の平を向けた。
「え? なに、その手は……あたしに何をしようとして――」
それ以上、言葉を発することはできなかった。
何故ならば、右の手の平から魔力を思い切り解き放ってあげたから。
「――ひっ」
瞬間、大量の魔力の塊がカロメに襲い掛かった。
未だかつて見たこともないような量だったはずだ。レイト様を含め、ここに居る誰もが思ったはずだ。「あ、死んだ……」と。でも、
「……あ、あ? ……あれ? あ、たし……いき、てる……?」
その場に蹲るカロメは、恐る恐る目を開ける。
そして全くの無傷であることを理解した。
先ほど、学院の校舎に対して虹魔法を発動したように、カロメのことも防御魔法で守ってあげたのだ。但し、異なる点が一つだけある。
「……は、ははっ、あはは! なによ! 馬鹿じゃないの! 見た目だけのコケ脅しじゃない!」
カロメは嬉しそうに声を上げ、勢いよく立ち上がる。
同時に勝ち誇ったかのような表情を作ってわたしを見下した。
「リリア! やっぱりあんたは凡人よ! 神童とは名ばかりの、ただの凡じ……」
そして気付いた。
カロメは、自分が素っ裸になっていることに。
「ひ、ひいいいいいいいっ!! なんではだかっ!? 服は!? あたしの服はどこっ!!」
防御魔法でカロメを守ってあげるところまでは同じだけど、着ている服については攻撃魔法の餌食になってもらうことにした。
その結果、カロメは公衆の面前で裸体を晒すことになった。
再び蹲り、服を求めるカロメを見下ろしながら、わたしは言い捨てる。
「わたしは凡人でも化物でもない……わたしはリリア・ノルトレア! 【虹魔】のリリアよ!!」
この日の出来事は、永遠に語り継がれることとなる。
第一王子のレイト・ヴァロキアが、【虹魔】の称号を持つリリア・ノルトレアに命じ、王立学院を跡形もなく破壊した……と。
若干違うけど、それぐらい別にいいよね。
レイト様は、口を開けて唖然としていた。
それもそのはず、学院に着くや否や、わたしは一切加減することなく全力全開の七属性同時魔法、つまり虹魔法を発動し、たったの一秒で校舎をぶっ壊したのだ。驚くのも無理はない。
「り、リリア、きみは何を……」
「ご安心ください、レイト様。誰一人怪我していませんので」
その言葉の通り、校舎内に居たであろう学生や先生たちは、瓦礫の中に埋もれながらも何事もなかったかのように外へと出て来る。
「無事……? これはどんな魔法を使ったんだ……」
「ただの防御魔法ですよ」
七属性の魔法を同時に発動し、校舎を崩壊させたと思っているかもしれないけど、実際には少し異なる。七属性のうち、風属性と光属性の魔法は攻撃魔法ではなく防御魔法として発動していたのだ。
対象となるのは、校舎内に居る全ての生物だ。
人間だけだと、犬や猫が対象外になってしまうので、とりあえず丸ごと一括りにしてみたけど、問題なく発動することができた。
一人一人の体を覆うように、風属性の防御魔法が張られている。
同時に、心に傷を負うことがないようにと、穏やかな状態を保つために必要な状態異常に特化した光属性の回復魔法を掛けている。故に、心も体も全くの無傷だ。
「あ」
とここで、瓦礫を押し退けながら、見覚えのある顔が出てきた。
「カロメ……」
――カロメ・グリストラ。わたしを孤独にさせた張本人だ。
「はあっ、はあっ、なんなのこれ? いったい何があったわけ? って、リリア!?」
目を合わせると、途端にわたしを睨み付けてズカズカと近づいてくる。
思わず拳を作り、息を呑む。だけど今のわたしは一人じゃない。隣にはレイト様が居る。
だから何も怖くなんてない。
「リリア! どうしてあんたがここにいるのよ! あんたは高等部に進めなかったはずよ! っていうか、まさかこれ、あんたがしたんじゃないでしょーね!」
「だったら、どうするの?」
「どうするですって? ふざけたこと言ってんじゃないわよ! ちゃんと責任取れって言ってんのよ! 今すぐ土下座! このあたしに土下座して詫びなさい!!」
ここにいる全ての人たちが、わたしたちのやり取りを傍観している。
他の人たちは理解しているのだろう。でも、カロメはわたしのことが嫌いすぎて、頭が追いついていないようだ。
学院の校舎を粉々にしたのがわたしだとすれば、その力は恐らくここに居る誰よりも強力で太刀打ち不可能だということを。
だけど、それを教えてあげるほど、今のわたしは優しくない。
だから代わりに、一つだけ言葉を贈ろうと思う。
「カロメ。わたしから貴女に言っておきたいことがあるの」
「はあっ? 何よ、あたしへの謝罪なら早くしなさいよ! もちろん土下座よ! ほら、地面に額を付けてごめんなさいって言いなさい!」
「違うわ」
さらっと否定する。
そしてわたしは、カロメに向けて右の手の平を向けた。
「え? なに、その手は……あたしに何をしようとして――」
それ以上、言葉を発することはできなかった。
何故ならば、右の手の平から魔力を思い切り解き放ってあげたから。
「――ひっ」
瞬間、大量の魔力の塊がカロメに襲い掛かった。
未だかつて見たこともないような量だったはずだ。レイト様を含め、ここに居る誰もが思ったはずだ。「あ、死んだ……」と。でも、
「……あ、あ? ……あれ? あ、たし……いき、てる……?」
その場に蹲るカロメは、恐る恐る目を開ける。
そして全くの無傷であることを理解した。
先ほど、学院の校舎に対して虹魔法を発動したように、カロメのことも防御魔法で守ってあげたのだ。但し、異なる点が一つだけある。
「……は、ははっ、あはは! なによ! 馬鹿じゃないの! 見た目だけのコケ脅しじゃない!」
カロメは嬉しそうに声を上げ、勢いよく立ち上がる。
同時に勝ち誇ったかのような表情を作ってわたしを見下した。
「リリア! やっぱりあんたは凡人よ! 神童とは名ばかりの、ただの凡じ……」
そして気付いた。
カロメは、自分が素っ裸になっていることに。
「ひ、ひいいいいいいいっ!! なんではだかっ!? 服は!? あたしの服はどこっ!!」
防御魔法でカロメを守ってあげるところまでは同じだけど、着ている服については攻撃魔法の餌食になってもらうことにした。
その結果、カロメは公衆の面前で裸体を晒すことになった。
再び蹲り、服を求めるカロメを見下ろしながら、わたしは言い捨てる。
「わたしは凡人でも化物でもない……わたしはリリア・ノルトレア! 【虹魔】のリリアよ!!」
この日の出来事は、永遠に語り継がれることとなる。
第一王子のレイト・ヴァロキアが、【虹魔】の称号を持つリリア・ノルトレアに命じ、王立学院を跡形もなく破壊した……と。
若干違うけど、それぐらい別にいいよね。