ド貧乏ナースエイドは難攻不落の外科医から信頼を得る~つくし集めてたら人生大逆転しました~
 掃除をひとりでしたので、休憩に入るのも遅れてしまった。
 食堂も人はまばら。ほとんどの定食が売り切れで、私は余っていたB定食を選ぶ。

 空いている席を探すと、すでに食堂にいた霧島先生と目があう。先生、今日は食堂にいる日なんだ。嬉しい気持ちが湧いてくるけれど、さっきの佐藤さんのことを思い出すと胸がズキっと痛んだ。私と先生が仲良くしていると思われたら、患者さんに迷惑がかかる。きっとそれは、霧島先生が望むことではない。

 先生が手を振ってくれたが、私は小さく会釈だけして別の席に座った。
 先生は無理やり私の席に来るようなことはなかった。

 本当は先生と話したい。今の気持ちを霧島先生に吐き出せたら、どれだけ救われるだろう。
 だけど、重本さんたちのことがある。私のわがままで患者さんや先生に迷惑をかけたくない。

 雨はざぁざぁと降り続いている。私……患者さんのことがとても大切だ。この仕事は不思議だ。私が患者さんを支えているつもりでも、いつの間にか私が患者さんに支えられている。辛い時も、悲しいときも、患者さんの笑顔が見れると心がほっとする。元気に退院していく姿を見ると、私も頑張ろうって思えてくる。
 自分が思っている以上に、この仕事が好きになっていた。
 そして……霧島先生のことも、きっと。

 いつも楽しみにしていた昼食も、なんだか味気ない。大切な人のために、私が我慢したらいい。それだけでいい。それだけでいいはずなのに。なんでこんなにも、世界は暗くなっていくのだろう。どうにか食事を胃に詰め込む。確かにあった恋心も、胸の奥に押し込めるようにした。

 そうして食堂を出ていこうとすると、霧島先生に呼び止められた。

「宮原さん、なにかあったのか?」
「……別に、何もないです」
「何もないなんてことはないだろう。顔色が悪いぞ」

 心配してくれる先生の気持ちが嬉しいと同時に、申し訳なくなる。私のせいで、先生まで悪く言われるのは嫌だ。

「……霧島先生には、関係ありません!」

 私は先生から逃げるように、食堂をあとにした。
 私、心配してくれている先生に最低な態度をとった。たぶん、これで霧島先生には嫌われただろう。だけどそれでいいんだ。先生のために、患者さんのためにもそうした方がいいと頭ではわかっているのに。

 まるで心が引き裂かれていくみたい。ズキズキとした痛みで、息が詰まりそうだった。
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