ド貧乏ナースエイドは難攻不落の外科医から信頼を得る~つくし集めてたら人生大逆転しました~
エピローグ~雑草のフルコース~
季節が回って、また春が訪れた。
今、私は文哉さんと一緒に暮らしている。
少し前の私だったら想像もできなかったような高級マンション。
私の事情を知った彼が、両親の借金を返したい私の気持ちを理解してくれて「一緒に住めば家賃はタダだ」と提案してくれたのだ。もちろん最初は断ったが、あれよあれよと言い組められて今に至る。でも、そのおかげで返済スピードは速くなって、予想よりもずっと早くに完済できた。
今日は彼がどうしても食べたいと言っていたつくしの浅漬けと卵とじの準備をしている。カラスノエンドウの豆ごはんも作った。生ハムとサラダに合わせるのはタンポポジャム。タンポポを150個も必要とする愛情たっぷりのジャムだ。雑草のフルコース、きっと文哉さん驚くだろうな。
この高級マンションでこんな料理をしているの、私だけかもしれない。そんな楽しい気持ちになっていると文哉さんが帰ってきた。料理の手を止め、玄関で彼を迎える。私は今日、文哉さんにあることを報告しようとしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
文哉さんは手早く手洗いとうがいをしてから、私にただいまのキスを落とす。
一緒に住んでから一度も欠かさない習慣だ。彼はキッチンで準備していた野草の料理を眺めて感嘆の声を漏らす。
「これが野草料理か。本当に亜希の料理の腕前には感心させられる。また惚れ直したよ」
「もう、調子いいんだから」
リビングのテーブルに座った彼。私は咳をひとつして、彼に切り出した。
「少し話があるの」
「どうしたんだ、あらたまって」
怪訝そうな顔をした彼の前に、私は一枚のプリントを出す。
「新星病院の制度を使って、准看護師になろうと思うの。そして、ゆくゆくは看護師になりたい」
新星病院には看護助手として一定の能力を認められた者にだけ、看護師への資格取得を支援してくれる制度がある。
優秀な看護師候補を病院で確保するための策だ。文哉さんはプリントを一瞥するとこめかみを掻いた。
「亜希の勤務態度や介護技術の評価からして、ほぼ間違いなく申請は通るだろう。だが、別に病院の仕組みを使わなくても俺がすべてサポートすることもできるんだぞ? 働きながら資格取得をするより、一時的にやめて看護学校に入学してもいいんだ。もう少し、俺を頼ってくれても……」
納得のいかなそうな彼に「待った」をかける。
「文哉さんには充分に助けてもらってる。だけど、これは私が自分の力で叶えたいの。長い間借金の返済のことだけを考えて生きてきた。借金を完済した今、……もっといいケアがしたい。少しでも多くの人を支えたい。そのために、自分の力で看護師になりたいの」
そして、これからもずっと、文哉さんの隣で働けるように。
「わかった。それなら俺は応援するよ。亜希なら最高の看護師になるはずだ」
「……ありがとう」
文哉さんは私の頭を撫でて、額に優しくキスを落とす。
「亜希はどんどん魅力的になっていくな」
彼と出会って、私は新しい人生を始めることができた。夢を持つことができた。
マンションの窓からは、あの日文哉さんと出会った土手が見える。
そこには去年と同じように、満開の桜が咲いていた。
今、私は文哉さんと一緒に暮らしている。
少し前の私だったら想像もできなかったような高級マンション。
私の事情を知った彼が、両親の借金を返したい私の気持ちを理解してくれて「一緒に住めば家賃はタダだ」と提案してくれたのだ。もちろん最初は断ったが、あれよあれよと言い組められて今に至る。でも、そのおかげで返済スピードは速くなって、予想よりもずっと早くに完済できた。
今日は彼がどうしても食べたいと言っていたつくしの浅漬けと卵とじの準備をしている。カラスノエンドウの豆ごはんも作った。生ハムとサラダに合わせるのはタンポポジャム。タンポポを150個も必要とする愛情たっぷりのジャムだ。雑草のフルコース、きっと文哉さん驚くだろうな。
この高級マンションでこんな料理をしているの、私だけかもしれない。そんな楽しい気持ちになっていると文哉さんが帰ってきた。料理の手を止め、玄関で彼を迎える。私は今日、文哉さんにあることを報告しようとしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
文哉さんは手早く手洗いとうがいをしてから、私にただいまのキスを落とす。
一緒に住んでから一度も欠かさない習慣だ。彼はキッチンで準備していた野草の料理を眺めて感嘆の声を漏らす。
「これが野草料理か。本当に亜希の料理の腕前には感心させられる。また惚れ直したよ」
「もう、調子いいんだから」
リビングのテーブルに座った彼。私は咳をひとつして、彼に切り出した。
「少し話があるの」
「どうしたんだ、あらたまって」
怪訝そうな顔をした彼の前に、私は一枚のプリントを出す。
「新星病院の制度を使って、准看護師になろうと思うの。そして、ゆくゆくは看護師になりたい」
新星病院には看護助手として一定の能力を認められた者にだけ、看護師への資格取得を支援してくれる制度がある。
優秀な看護師候補を病院で確保するための策だ。文哉さんはプリントを一瞥するとこめかみを掻いた。
「亜希の勤務態度や介護技術の評価からして、ほぼ間違いなく申請は通るだろう。だが、別に病院の仕組みを使わなくても俺がすべてサポートすることもできるんだぞ? 働きながら資格取得をするより、一時的にやめて看護学校に入学してもいいんだ。もう少し、俺を頼ってくれても……」
納得のいかなそうな彼に「待った」をかける。
「文哉さんには充分に助けてもらってる。だけど、これは私が自分の力で叶えたいの。長い間借金の返済のことだけを考えて生きてきた。借金を完済した今、……もっといいケアがしたい。少しでも多くの人を支えたい。そのために、自分の力で看護師になりたいの」
そして、これからもずっと、文哉さんの隣で働けるように。
「わかった。それなら俺は応援するよ。亜希なら最高の看護師になるはずだ」
「……ありがとう」
文哉さんは私の頭を撫でて、額に優しくキスを落とす。
「亜希はどんどん魅力的になっていくな」
彼と出会って、私は新しい人生を始めることができた。夢を持つことができた。
マンションの窓からは、あの日文哉さんと出会った土手が見える。
そこには去年と同じように、満開の桜が咲いていた。