ド貧乏ナースエイドは難攻不落の外科医から信頼を得る~つくし集めてたら人生大逆転しました~

未経験のナースエイド

「それじゃあ、いただきますっ!」

 お腹が早く早くと急かしてくる。つくしを調理するのはけっこう手間がかかる。つくしを洗って〝はかま〟を取ったり、細かい下ごしらえが必要なのだ。時間をかけたぶん、食べるときの期待感が高まってしまう。
 つくしのお浸しを、ゆっくりと口に運ぶ。一口噛むと、つくし独特の味が口に広がる。

「ん~! おいしっ! もやしにも似た感じだけど、ほろ苦さもあって……それが出汁と絡んで最高~!」

 コリコリとした触感が楽しい。次々とつくしを味わう。一度食べたら止まらなくて、あっという間に平らげてしまった。

「ふぅ……ごちそうさまでした。明日の朝の分は冷蔵庫に入れておいたし、ちょっとだけ安心かな」

 川の土手でつくしを連日収穫するのは気まずい。明日からはタンポポを集めよう。タンポポなら根をきんぴらにできる。
 私はお皿を片付けて無料の求人誌を見る。なにを隠そう、私は現在無職なのだ。
 七年近く働いていた居酒屋が潰れたのは大ダメージだ。一食分が浮くまかないがもらえないのは痛すぎる。
 第一に、特別な資格や学歴もない私が新しい就職先を見つけるのは、はっきり言って難しい。
 求人誌を真剣に読み進める。できるならアルバイトより正社員。ご飯が食べられる職場がいいな。無資格でも大丈夫で、学歴だって関係なしのところ。あとは場所も大事だ。私は車もないし、このアパートから通勤できる距離じゃないときつい。贅沢な望みかもしれないけれど……。
 期待せずにページを捲っていくと、大きく誌面に取り上げられている求人があった。
 これ、土手の近くの新星病院だ。

「ナースエイド募集……?」

 看護助手という職種の募集らしい。無資格でもできて、主に患者さんの身の回りのお世話などをするそうだ。介護士みたいなお仕事なのかな。

「ってこの求人、社員食堂がある! ただではないけれど格安で、給料から天引きなのか。これならだいぶ助かるなぁ……」

 給料も居酒屋のときより良い。私はダメ元で新星病院の面接を受けることにした。
 もし受かることができたら、通勤にはあの川の土手道を歩くことになるだろう。
 そうしたら、あの彼とまたすれ違うこともあるかもしれないな、なんて。
 珍しい犬を連れていたから、散歩中ならすぐにでも見つけられるだろう。そんな妄想をしていると、少しだけ心が弾んだ。
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