異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
 呆然と午後を過ごしているうちに、隆司との約束の時間になった。
 隆司は、これまで以上に、優月に優しく接してきた。食事の進みの悪い麗奈をあれこれ気遣ってくる。

「ワインを飲めば食事も進むよ」

 隆司の選んでくれたワインはアルコールに慣れていない優月にもとても飲みやすいものだった。そして、実際、お酒を飲んだことで優月の気持ちもほぐれていく。

「隆司さん、きちんと言っておくわ。私はあなたとの結婚を取りやめにしたいの」
「優月ちゃん、俺は優月ちゃんが許してくれるまで謝り続けるつもりだ。俺は優月ちゃんのことをないがしろにしてた。俺には優月ちゃんしかいないのに」

 優月の心がぐらりと揺れそうになる。隆司でもいい、あの家から出て行くことができるのならば。

「さあ、出ようか」

 デザートも終えて、隆司に続いて立ち上がろうとして、優月はうまく立ち上がれずにいた。

(なに、これ……。これって酔っぱらってるの……?)

 意識はしっかりしているのに、足元がおぼつかない。隆司はすぐさま手を伸ばして、優月の腰を支えてきた。
 軽く腰を支えられながらレストランを出る。

「わたし、おかしいわ」
「大丈夫だよ、優月ちゃん」
「ごめんなさい」
「いいんだよ、ぜんぜん」

 エレベーターを降りると絨毯の廊下が続いている。隆司は迷いなく廊下の奥へと優月の腰を抱いて進む。

「どこいくの?」

 優月はいつもより思考が回りにくくなっていた。

「今日は優月ちゃんに優しくするつもりだよ」
「………?」
「あの日、怒る優月ちゃんを見て、俺、びっくりしちゃった。俺への嫉妬であんなに怒ったんだよね」
「え?」
「麗奈ちゃんと会わせないために縁まで切らせるなんて、俺、すごく興奮したよ」

 隆司は客室のドアの前で止まると、カードキーをかざす。
 そこにいたって、やっと隆司の考えていることがわかった。
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