異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。


(いやだわ、逃げなきゃ)

 しかし、トンと優月は背中を押されて部屋に押し込められて、そのままベッドに連れていかれる。

「隆司さんっ、いやっ!」
「いいんだよ、素直になっても」
「いやっ、やめて! 生理的にダメになったって言ったわ!」
「わかってるよ。いろいろと取り繕いたくて、ああ言ったんだよね? 嫉妬に怒り狂った姿を見られて恥ずかしいよね。でも、俺には取り繕わなくても大丈夫だよ」

 優月はぞっとした。
 そのときになってはじめて優月は恐怖を感じた。

(話が通じる相手ではないんだわ)

 優月が暴れるも、隆司は手を緩めない。

「いやっ、やめてっ!」
「わかってる、わかってるよ」
「いやなの、本当にいやなのっ」
「もうそろそろ暴れるのやめてくれないかな。優しくできないでしょ、ああ、それとも乱暴にしてほしいのかな」
 
 隆司はそう言うと、ぐいっと優月にかがみこんできた。

(い、いやっ)

 サイドテーブルに手を伸ばし、掴んだものを隆司の頭に振り下ろした。
 ごん、と鈍い音がして、隆司の手が緩んだ。
 その隙に隆司の下から逃げて、バッグを持って部屋を飛び出た。
 背後から、「優月ちゃん、待って」との隆司の声が聞こえて来る。
 何とかエレベーターにたどり着いてボタンを押すも、隆司が近づいてくる。

「優月ちゃん、恥ずかしがらなくてもいいんだよ」

(早く、早くエレベーター、来て)

 すぐに追いついてきた隆司に、手首をつかまれて引っ張られる。

「いや……っ、はなして……」
「優月ちゃん、俺には素直になっていいんだよ」

 力敵わず、優月は引きずられる。

(ああ、もうだめ……)

 そのとき、声が聞こえてきた。

「何をやってる? 嫌がってるように見えるが」

 エレベーターの中からだ。到着したエレベーターに男性客が乗っていたらしい。
 優月は見知らぬ相手に助けを求めた。

「た、たすけて……!」

 隆司は高圧的な声を放った。

「この人は俺の婚約者だ! 部外者はすっこんでろ!」

 しかし、男性はエレベーターから出てきて、優月を引きずっていこうとする隆司の腕を捻り上げた。
 優月から隆司の腕が外れた。優月は飛びのくようにして、男性の背中に隠れた。

「貴様!」

 隆司は男性に殴りかかるも、男性は優月をかばいながら避ける。勢い込んだ隆司は絨毯に転がった。
 優月と男性はその隙にエレベーターに乗り込んだ。
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