異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
(た、たすかったわ………)

 降下するエレベーターの中で、優月は安堵の息を漏らした。幸い乱れたのは髪だけで衣服に乱れはない。髪を手で整える。
 そんな優月に、男性が訊いてきた。優月を怖がらせないためか、距離を取っている。

「大丈夫ですか? 警察を呼びましょうか。救護室までお連れしましょうか、それとも、女性スタッフでもお呼びしましょうか」

 優月はそれらの問いに首を横に振った。怪我もないし、警察沙汰にするつもりもなかった。
 聞き覚えのある声に、優月は顔を上げて男性の顔を見た。

(えっ……)

 随分と会っていないが、優月にはわかる。由紀也だ。

「ゆ、由紀兄さん………?」
「えっ……?」
「わ、わたし、優月です」
「優月……?」

 由紀也は驚いた顔で見つめていたが、目に親愛を浮かべた。

「優月………、大きくなった。見違えた」

 優月は、張り詰めていた気持ちが緩んだ。
 両目から涙があふれてきた。

「由紀兄さん……、わたし、怖かったわ…………」

 由紀也は優月を慰めるように寄り添ってきた。

「優月……、怖かったね、もう大丈夫だ、大丈夫だよ」

(こんなところで由紀兄さんと会えるなんて……)

 ここのところ、由紀也を思い出すが多かったために、それが引き寄せたとしか思えなかった。

(由紀兄さん、会いたかった………!)

 不意に無自覚のうちに溜め込んでいた思いがこみ上げる。
 優月は由紀也にずっと会いたくてたまらなかったのだ。
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