異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
 服の隙間に現れた隆司の気味の悪さに、優月は腰を抜かした。そんな優月の腕を隆司が掴んで引きずり出す。

「い、いや……、やめて……」
「優月ちゃん、優しくするから安心して」
「お、おねがい、隆司さん、こんなことするの、やめて……」
「優月ちゃん、素直になっていいんだよ」
「いや……、いやよ……」

 隆司は優月をベッドに引きずっていく。優月は声を上げた。使用人の名前を叫ぶ。

「タキさん、米田さん、助けてっ! お願い、助けてっ!」

 家族よりも使用人に救いを求めるしかない状況が悲惨だ。
 そして、当然ように、使用人もまた来ない。この部屋以外、屋敷内は恐ろしいほどに静まり返っている。
 ベッドに倒されれば、隆司の顔が迫ってくる。

「いやよっ、いやぁーっ」

 不意に、階下で、市太郎の怒鳴り声がした。

「ちょっと、待ちなさい。待てっ」
 
 物音がし、人影が近づいたかと思うと、隆司が優月から離れ、絨毯に投げ飛ばされる音がした。
 目の前に由紀也の顔が現われる。

「ゆきにいさ……っ」

 優月は由紀也に手を伸ばした。その手を掴んで由紀也は優月を引っ張り起こした。

「優月、大丈夫か」

 優月が涙ながらにうなずく。
 由紀也は優月を抱き上げた。優月は必死でしがみついた。
 後ろで市太郎がわめきたてる。

「待て! どこに連れて行く! 警察を呼ぶぞ!」

 由紀也はそれを無視して屋敷を出た。

(由紀兄さん、また、助けてくれた……)

 優月は泣きながら由紀也にしがみついていた。
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