異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
 由紀也のマンションで優月は解放感を覚えていた。

(私もうあの家を出たんだ)

 恐ろしいほどに気が楽になっていた。

(ずっとつらかった、あの家で、私、ずっとつらかったんだわ。自分で思っていた以上につらかったんだわ)

 優月は、由紀也の衣服を借りて、朝食の席についた。ぶかぶかのTシャツに短パンだが、ネグリジェのままでいるよりはましだろう。
 テーブルに並べられた皿は、どこかから届けられたモーニングのようだった。
 スーツを着込んで向かいに座る由紀也はひどく優しげな眼で優月を見つめてくる。

「いったん会社に出るけど、すぐに戻る。午後、優月の荷物を取りに高遠の屋敷に行こう」

 優月は、高遠との言葉に少々身を震わせた。
 高遠の家は今や優月の安心できる場所ではない。それどころか、危害を加えられる不安しかない。
 しかし、今の優月は身一つの状態だ。スマホも財布も置いてきた。

「一緒に行ってくれる?」
「もちろんそのつもりだ」

 由紀也がひたすら心強い。

(由紀兄さんがいなければ、今ごろ私は)

 昨日は二回も火急の場に現れて優月を助け出してくれた。

(何だか運命のようなものを感じてしまうわ)

 優月にとって、由紀也は特別な人だったが、更に特別になった。
 朝の穏やかかな光の中で見る由紀也は、その容姿もひときわ好ましい。立ち居振る舞いもとても洗練されており、堂々としたものを感じる。
 優月は、これまでにはない感情が湧いているのを感じていた。

(由紀兄さんがとても素敵に見えるわ。どうしよう、胸がドキドキするわ)

 そこではたと気づく。自分が由紀也のことをほとんど何も知らないことに。
 叔父であること、ただただ優月を守ってくれる人。そのほかは知らない。
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