異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
「そういえば、私、由紀兄さんのこと、ほとんど知らないわ」
「俺のこと? ああ、そうだよね、不安だよね」
「不安というより、もっと知りたいの」

 由紀也は、内ポケットから名刺を取り出した。

「安心材料になるかどうかはわからないけど」

 由紀也が差し出した名刺には、藤堂由紀也との名前に、代表社員の肩書があった。
 しかし、優月が知りたいのはそういうことではなかった。もっと、由紀也のことを知りたい。たとえば、何が好きなのか、日頃どう過ごしているのか、そして、愛する人がいるのかどうか。

「結婚はしているの?」
 
 同居家族の存在は感じられないが、別々に住んでいるのかもしれない。もしそうであれば、優月はここに長居はできない。夫の家に居候がいるのはいやだろう。

「してない」
「恋人は?」
「特定の彼女はいない。だから、優月は遠慮なくここにいていいんだよ」

 先回しに優月を安心させるつもりで由紀也はそう言ったのだろうが、言外に遊び人であるようにも聞こえた。由紀也もそれを自覚したのか、慌てて言った。

「優月の保護者になったんだから、今後は控えるつもりだ」
 
(これだけの男性なら、女性は放っておかないわよね)

 どういうわけか急に腹が立ってきた。

「そこは由紀兄さんの好きにしてください」

 優月がツンとしてそう言えば、由紀也は呆気に取られた顔をした。

 玄関を出る前に由紀也は言ってきた。

「一人でどこにも行ってはいけないよ。チャイムが鳴っても応答しないで」

(由紀兄さんには、私が小さい子のように思えているのね)

 心配してくれていることは十分に伝わってきたが、どこか悔しくなった。
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