異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
 優月に肩の力が抜けると同時に、何がおかしいのか笑いが込み上げてきた。
 あははは……。
 優月の笑いに釣られるように由紀也も笑い出した。
 車内に二人の笑い声が響く。

「おかしいわ、あの人、まだ、自分が許す側でいたんだわ」
「謝るのは、市太郎さんの方だよな。謝っても許されないけど」

 優月は自分がもうパパと呼ばなかったことに気がついた。市太郎に対する気持ちはもう父親に対するものではなくなっている。

(パパにはもう二度と会うことはないんだわ……、あの家はもう私の家じゃなくなっちゃったんだわ……)

 生まれてからずっと住んできた家。いやなことも多かったが、少なからず楽しいこともあった。
 由紀也は優月の内心を見抜いたように言ってくる。

「優月、何も心配はない。優月には俺がついてる」

 優しい声に優月は涙が出てきた。

「うん、由紀兄さん、ありがとう。これからしばらく厄介になるわ」
「いつまでだって俺のところにいていい」

 しかし、そんなわけにもいかないことくらいわかっている。

「私、これまで甘えて生きてきたんだわ。これから自分で生きていかなきゃ。それまでの間、由紀兄さん、よろしくお願いします」

 そう言えば由紀也は少し寂しげな顔をしたように見えた。
 優月は由紀也にあらためて礼を言う。

「由紀兄さん、ありがとう。再会できて本当に助かったわ。でなければ、隆司さんに無理矢理にされて、結婚させられていたかもしれないもの」
「それを思えば、俺の方こそ、再会できた幸運を喜ぶべきだな」

 由紀也はそんな風に言った。
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