異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
「あら、優月、帰ってたの」

 美智子の声に、麗奈が入り口を向いた。

「優月、入っていらっしゃいよぉ。ドレスが届いてるわよぉ」

 麗奈は今、優月に気づいたような顔で言った。その顔に何ら悪びれるものはない。
 優月はそこから逃げ出したくなるも、足は固まったように動かない。
 そんな優月に麗奈が声をかけてくる。

「このドレス、良いデザインね。どう、私にも似合うかしら?」
「………っ、それっ、私のドレスっ……」

 優月は声を絞り出した。

「ね、優月も着てみない? きっと優月のほうが似合うわ」
「か……、勝手に着るなんて……、ひ、ひどいわ……」

 怒りのあまり声が出にくい。
 麗奈はきょとんとした顔をする。

「ちょっと着ただけよぉ?」
「それ……っ、私のドレスよ」

 よろよろと優月は麗奈に向かった。

「わ、私のドレス、どうして勝手に着たの?」
「きれいなドレスがあったら、着てみたくなっちゃうじゃない?」

 麗奈はこともなげに言った。
 麗奈には丈が長いらしく、ドレスの裾を踏みつけているのがわかる。
 優月は、怒りのために目の前が真っ赤に染まりそうだ。
 
「私のウェディングドレスよ、ひ、ひどいわっ」
「もしかして怒ったのぉ?」

(怒らないとでも思ったの? どこまで馬鹿にしてるの?)

 優月は使用人たちを見た。

「ど、どうして、だれも止めなかったの……?」

 使用人たちは優月から目を逸らす。
 次に隆司を見る。

「隆司さん、どうして、麗奈を止めなかったの?」

 隆司は気まずそうな顔で言い訳する。

「麗奈ちゃんは、優月ちゃんの妹だし」

 美智子の声が上がった。

「この子ったら、これくらいのことで拗ねちゃって。盗られたわけでもないのに、そんなに騒がないでちょうだい」
「盗ったも同じだわ……!」

 もう優月はそのドレスを着たいとも思えなくなっていた。ドレスもドレス選びの楽しい思い出も無残に奪われたと感じる。
 美智子が優月を見た。その目がとがっている。

「優月、妹を泥棒扱いするの? 妹に謝りなさい」
「ど、どうして? どうして私が謝らないといけないの? 謝るのは麗奈でしょ! 誰も止めないで、みんなで私のことを馬鹿にして……! ひどいことをされたのは私よ!」

 そこに、美智子の手が伸びてきたかと思えば、耳元で破裂音がした。美智子が優月の頬をぶったのだ。

「悪気があったわけじゃないでしょ。あなたはどうしてそんなに自分勝手で我が儘なのよ!」

 優月は頬を片手で抑えて、美智子を見返した。
 美智子はぶつのが当然とばかりに優月を見据えている。

(どうして私が自分勝手で我が儘ってことになるの……?)

 優月は美智子を見返した。

「謝るのは私じゃないわ!」

 優月はそう叫ぶと、廊下をかけて自分の部屋へ向かった。
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