異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
 優月は呆気に取られて麗奈を見つめる。
 麗奈のドレスは着古されたもので、麗奈にはどこか余裕がなかった。

(パパはドレスを買ってあげるお金もなくなったのかしら)

 優月に気がつけば、麗奈も唖然としていた。
 麗奈は、優月に目を見張るものの、いつもの傲慢な目付きを寄越してきた。

「優月、どうしてここにいるのぉ? まさか、うちの社員狙いでやってきたのぉ?」
「………?」
「麗奈の彼氏がこの会社のCEOってこと、知らなかったぁ?」

 麗奈は勝ち誇るような顔で言ってきた。

(御曹司の彼って、もしかして、由紀兄さん………?)

 そのとき、麗奈が媚びた目を、優月の背後に向けた。

「由紀也さぁん、受付の人が中に入れてくれないのぉ」

 振り返ると、由紀也が追い付いていた。由紀也は麗奈を見ないで優月の腰を抱いて入り口に向かう。

「ちょっと、由紀也さん、麗奈はこっちよぉ。受付の人がパーティーに入らせてくれないのぉ」

 由紀也は麗奈に冷たい目を向けた。

「優月の妹だと知ってたから、目をつむってきたが、もうその義理はない。優月はもう家族と縁を切ったから」

 優月は事情を理解した。

「『特別な縁』って、私と由紀兄さんのことだったのね……。由紀兄さんは私の義叔父だもの……」

 どういう経緯で麗奈と由紀也が出会ったのかわからないが、由紀也は、親戚ということでパーティーに押しかけた麗奈を見過ごしてきてやったようだ。

「へ、へえ。お、叔父さんだったのぉ?」

 麗奈は、由紀也とは面識があるというのに、少しも覚えていなかったらしい。

(都合の悪いことは忘れてしまうもの、怒られた相手のことなど覚えてないわよね)

 麗奈はいろいろと勘違いして、由紀也を自分の彼氏だと思い込んだのだろう。
 そして、それはまだ続いているらしく、麗奈は由紀也を上目遣いで見上げた。

「由紀也さんは麗奈との縁は切らないでしょぉ?」

 麗奈は由紀也に手を伸ばしてくる。しかし、その手を優月は跳ねのけた。

「私のものを勝手に触らないで!」

 麗奈はポカンとした顔をした。

「由紀兄さんは、今は私の夫なの」



 ホール入って、しばらくしたところで、外で騒いでいるような声が聞こえてきた。
 優月が入り口から顔を出せば、叫ぶ麗奈が警備員たちに抑えられていた。見苦しく暴れている。

「うぎいいいっ、優月のくせに! ゆきやざんはわだじのものなのにいいい!」

 そのうち麗奈は口から泡を吹いてバタンと倒れた。
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