異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
 優月は自室のベッドに伏せた。
 はらわたが煮えくり返ってしようがなかった。
 麗奈はいつも優月のものを勝手に取っていく。
 文房具でも化粧品でも、とっておきの新品をいつも麗奈に奪われた。使った後に悪びれずに返してくるが、新品だった消しゴムやリップの先が崩れて返ってきても、腹が立つだけだった。
 ときに優月がひどく怒れば、麗奈は傷ついた顔を|《周囲》に向ける。

「ひ、ひどいわ、優月……。ちょっと、借りただけでしょう、すぐに返したわ……? なのにそんなに怒るの……?」

 そうなれば「周囲」からは優月が妹に冷たいと見えて、優月が悪者になってしまう。
 そして、美智子は一見、優月にも良い母親に見えるが、ここぞというときに嫌がらせをする。「うっかり」パスポートを切らしていることに気づかず修学旅行に行けないこともあったし、「うっかり」入学金を払ってもらえず志望大学にも行けなかった。
 優月は、幼いころから美智子の自分への態度に違和感を覚えていたが、10才のとき、自分が継子であることを知り、大いに納得した。優月の母親は優月を産んでまもなく亡くなり、その後、美智子と麗奈が高遠家に入ってきたのだ。
 半年ばかり年下の麗奈が、父の実子だとわかったときには、父親に対して失望したが、しかし、家の中で唯一、信頼できる相手である父親を嫌うことなどできなかった。
 優月にとってこの家はひどく居心地が悪い。優月なりに美智子と麗奈と良い関係を築こうと頑張っていた時期もあったが、もうとっくに諦めている。
 結婚すればこの家を出られる、と、父親の持ってきた話に飛びついたが、結婚に浮かれてたのが嘘のようだ。
< 4 / 38 >

この作品をシェア

pagetop