異母妹にウェディングドレスを汚されましたが、本当に大切なものには触ることも許しません。
 父親が夕飯の席に着いた。
 優月は事前に『パパ、話があります』とメッセージで送っていた。
『明日の夜帰るからね』と、父親はのん気な調子で返してきた。
『二人だけで話したいの』とのメッセージには『いいよ♡』と少々気持ちの悪い返事があった。
 しかし、父親は、美智子も麗奈もいる席で、優月に向けて尋ねてきた。

「優月ちゃん、話って何だい?」

(はああ、パパは、つくづく、残念だよね)

 父、市太郎は愛情深いところはあるが、男性らしい鈍感さと無神経さを備えている。想像力もいまいち働かない。
 だから、優月に対する美智子と麗奈の悪意にもまったく気付いていない。
 わざわざ『二人だけで話したいの』と告げているのに、こうやって美智子と麗奈の前でもぶちまける。
 市太郎は刺身を咀嚼しながら言った。

「ドレスのことで怒ってるんだって?」

 美智子が顛末を既に話しているのだろう。もちろん美智子目線での顛末を。
 そして、優月が自分勝手で我が儘なことになっているのだろう。
 美智子と麗奈の前で話せば、美智子と麗奈の巧妙なやり取りに優月は負かされてしまう。しかし、二人だけで話せば、父親は、必ずわかってくれる。
 それだから、優月は、今までこの家でやってこれたのだ。

「麗奈、傷ついちゃったわぁ。優月ったら、ちょっとドレス着たくらいで怒っちゃうんだもん」

 麗奈を無視して、優月は言った。

「パパ、あとで、部屋に来て。大事なことなの。お願い」

 その場はそれで済ませた。
 そのあとは、市太郎の話に美智子が相槌を打ち、麗奈が茶化すという、いつもの夕飯の流れとなった。
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