小林、藝大行くってよ
 トップバッターがあまりに衝撃的やったさかい、その後の自己紹介はあまり頭に入ってきぃひんかった。あの白と青の美しさと一点の曇りもない瞳にキュンッ!いやキュンってなんやねん。恋ちゃうし。

 とにかく、おれも負けてられへんと思ったわ。浅尾っちをアッと言わせたる!
 
「はーい、じゃあ次ー……小林君ねー」

 よっしゃ来た!来た来た来たで!真打登場や!
 マキちゃんの呼びかけに、おれは颯爽と立ち上がる。ふふふ、注目浴びとるでぇ!やはりここは、一発カマしたろ!
 
「小林君もデータで持ってきたのかなー?」
「ありませんッ!」
「……はーい?」
「おれはまだ……“これが自分やッ!”って言えるような作品が描けてへん……せやから、今ここでお見せできるものは」
「じゃあ小林君は終わりねー。次行こうかー」
「ちちちちちょおッ!待って待ってマキちゃんッ!ウソウソ!持ってきとるッ!持ってきとるって!」

 容赦なくぶった斬られて、おれは持参したUSBメモリを慌ててポケットから取り出した。すると、マキちゃんが腹を抱えて笑い出す。

「あははははッ!焦ってる焦ってるー!」
「持ってきているのなら、早く準備をしてください。コントは時間の無駄です」

 続けて清原助手が唱えたヒャダルコが、部屋全体を一気に凍てつかせる。おれはカチカチに凍りながらUSBメモリをパソコンへブッ刺した。はぁ、東京の人間は冷たいでぇ……。

「それじゃあ今から5分ねぇ」
 
 セクシー岡田教授が含み笑いをしながら、5分間のタイマーをポチッと押した。よっしゃ、気を取り直すで!

「おほん。えー小林一佐ですぅ。小さい林と書いて小林……って、誰が小さいねんッ!」

 ……ふっ。無反応なんは分かっとったで。せやけど、めげないのがISSA KOBAYASHIやねん!

「実はおれはあの有名な小林一茶の生まれ変わり……ではなくッ!ひたすらに鳥を愛する、ただの天才ですぅ。ちなみに“いっさ”いう字は、お茶やのうて“佐藤さん”の“佐”ですぅ……って、誰やねん佐藤さんッ!」
 
 ……よし!無反応!ヒデだけは苦笑い。浅尾っちに至っては、半分寝とるし。しかしここからが本番や!

 おれはパソコンを操作して、USBメモリに保存してある画像をクリックした。さあ、刮目せよ!これが、京都が産んだ天才画家ISSA KOBAYASHIの作品やッ!

「ほぉ、これは……オオミズナギドリですかね?」

 おお、さすが今江教授やな。もしかして鳥好きなんか?
 そう。おれが“自分を表現した作品”に選んだのは、水面ギリギリを飛行する1羽のオオミズナギドリの絵やった。
 
「そうです!ふるさと京都府の府鳥オオミズナギドリですッ!おれは昔から鳥が好きで好きで好きで鳥の絵ばっか描きよりましたッ!そしてこの絵は京都府の絵画コンクール高校生部門で金賞をいただき京都府庁の玄関ホールにも飾られましたッ!」

 ひと息に話すと、浅尾っちがおれの絵にじっと視線を向けているのに気がついた。いやッ!見てくれとるゥ!嬉しいッ!
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