小林、藝大行くってよ
「お前は綺麗やなぁ……どんな景色もお前の前では霞んでまうわぁ。至高の美やわぁ」

 ……まだまだ百合ちゃんの声は聞こえへん。うぅん、いけずやのぅ。せやけど、ちょーっとツンとしとるところがたまらんわぁ。

 どないしたら、こっち振り向いてくれるんやろ?高嶺の花やなぁ。綺麗やって褒めまくったろか。

 あぁ綺麗やわぁ。ほんま綺麗やわぁ。世界一綺麗やわぁ。この真っすぐな茎。少し俯き気味の真っ白な花びら。甘く濃厚な匂い。どれをとっても美しいよなぁ。

 どら、ちょっとこっち向いてみぃ。おれのあつぅ~いベーゼを……あ。あかん、鼻が……!

「ふ……ふ……ぶわっくしょえいッ!」

 静かな実習室に、おれのクシャミが響き渡る。盛大にカマしすぎたわ。一斉に注目を浴びてもうた。

「大丈夫ー?花粉症ー?ティッシュいるー?」

 ヨネが振り返ってポケットティッシュを差し出してくれた。や、優しい……女神やん。もしかして、おれのこと好きなんか?浅尾っちやのうて、おれに興味あるんか?

「おお、サンキュー!」
「それ駅前で配ってたやつだからぁー全部使っていいよぉー」

 よう見たら、そばかすが可愛いな。描いとる絵は不穏やけど、本人は明るくて優しくて癒し系。ええ彼女になりそうやん?

 彼氏はおるんやろか。名古屋出身言うてたよな。つまりおれと同じで、上京したてってことやろ。仮に彼氏がおっても遠距離っちゅーこっちゃ。いや、おらんかもしれへん。よっしゃ、ちょっと訊いてみるか。

「なぁ、ヨネは……」
「おっとぉー!」

 話しかけようとしたところで、ヨネの机の上から鉛筆がコロコロと転がり床へ落ち……ると思いきや、浅尾っちがその直前でナイスキャッチ。スマートな動きで鉛筆をヨネへと差し出した。

「ほら」
「わーありがとう浅尾きゅん!」

 え、なんやこの空気。ハートマークが見える……?いや、まさかな。
 ほんでも浅尾っちはかっこええしな。シュッとしとるさかい。なんちゅーか服装は奇抜でデーハーやけど海外のモデルっちゅー雰囲気やし。

「浅尾きゅんってー手足長いよねぇー洋服選ぶの大変そうだなぁー」
「口より手を動かせよ」
「はぁーい、ごめんなさぁーい」
 
 ……や、やっぱりここにロマンスの神様舞い降りちゃうッ!?よう考えたら、この2人はお似合いかもしれへん。クールでドライな浅尾っちに、ほんわか癒し系のヨネ。いやッ!素敵やん!?

 待て待て待て。目の前でリア充見せつけられるとかゴメンやで。
 そもそも浅尾っちは彼女おるんちゃう!?きっとおるよなイケメンやし!ごっつスタイル良い年上美女とシャンゼリゼ通りを闊歩してそうやん!?……ってなんでフランスやねんッ!アイムジャパニーズッ!

 浅尾っちの彼女の存在が無性に気になったおれは、その日の帰り早速ヒデに訊いてみた。高校3年間一緒なら、そんぐらい知っとるやろ。
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