小林、藝大行くってよ
 なんやろな。浅尾っちは、おれが子供の頃から憧れていた芸術家のイメージそのものって感じや。

 周囲に(おもね)ることなく、自分の理想だけを常に真っ直ぐ見つめる。そしてあらゆるものを細かく観察して深く理解しながら、その姿を美しく描くための技術を磨く。妙なこだわりを持たず、ひたすら自分を高めることだけを考えとるんや。

 いつもえらい派手で奇抜なファッションをしとるが、それも全部自分の中にあるエネルギーを表現するためなんやな。

 知れば知るほど、浅尾っちは魅力に溢れた人間やと感じるわ。ある意味、男が惚れる男なのかもしれへん。
 
「浅尾っちの絵は」

 せっかく2人きりなんや。もっと話したろ思て、会話を切り上げようとした浅尾っちの横顔に話しかける。
 無視されるかと思いきや、こっちに視線を向けてくれた。やっぱり初対面の時とは違うで。終始無表情なんは変わらんけどな!
 
「なんちゅーか、めちゃくちゃ澄んでるよな!」
「……澄んでる?」
「透明……いや、ちゃうな。めっちゃ綺麗に磨かれた鏡やな。一点の曇りもない鏡や。せやから自分の心が映るような感じやねん。眺めとるだけで、おれも描かな!って気持ちにさせられるわ」

 感じたことを、そのまま言ってみる。すると浅尾っちは、ほんの少し片眉を上げておれの顔をじっと凝視してきた。
 無言でめっちゃ見てくるやん。いやッ!恥ずかしいッ!照れちゃうッ!

 ていうか浅尾っちの目、綺麗すぎやろ。浅葱鼠(あさぎねず)より少し濃い、紺鼠(こんねず)よりも明るい青みがかった灰色っちゅーか。
 こんな瞳で熱い視線を送られたらハート射抜かれちゃうッ!

「ど、どないしたんや?おれの顔になんかついとるか?」
「……いや。表に出る人格と深層は別だよなと思っただけ」
「おん?どういうこっちゃ?」
「そのままの意味だよ」

 やっぱり無表情やから、浅尾っちの感情はまったく読み取れへん。そしてすぐ背を向けられてしもた。
 せやけど凍えるような南極の空気やない。まるで春の嵐山みたいな爽やかさを感じるで。もしかして、おれの事を少しは認めてくれたんやろか?

 下手な作戦練らんでも、お互いの絵を見れば理解が深まるんやな。天才同士やしな。通じるものがあんねん。

 しかしもっと絆を深めるためにも、PASSION and LOVE大作戦は必ず成功させねばならぬのだ。このミッションには人類の未来が!かかっとるわけではないがッ!この先の4年間を左右するはずなのだッ!

 ……おっと。作戦も大事やが、百合ちゃんをほったらかしにしたらあかんな。おれが来るのを待ちわびとったはずや。

 すまんなぁ。浅尾っちに浮気してもうて。うーん、今日も綺麗やで。いや、前より綺麗になったんちゃうか?めっちゃ美人に描いたるさかい、そろそろ振り向いてくれんかなぁ。
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