小林、藝大行くってよ
「それじゃあさー好きな飲み物とかあるー?」
「ミックスジュース」

 おお……めっちゃ即答しとるやん、浅尾っち。そうか、ミックスジュースが好きなんやな。頭の中の浅尾っちメモに記録したで!……んで、ミックスジュースって何をミックスしとるんや?

「つーかオレ帰るわ。もう終わったし」
「えーもう帰っちゃうのー?あ、さては彼女とデートだなぁー?」
「なんやてッ!?黒髪ロング美女かッ!?」

 ついつい身を乗り出すと、浅尾っちは絶対零度の視線を向けてきた。表情はいつも通り“無”やのに、圧がすごすぎるやん……戦闘力53万やん……。

 そのまま実習室を出る後ろ姿を、おれとヨネは黙って見送った。

「踏み込むなオーラすっごく出てたねぇー」
「ほんまやな……せやけど、ヨネはめっちゃ引き出しとったやん!」
「欲しいものはーひとりで静かに絵を描く時間でー好きな食べ物はマカロン以外でー好きな飲み物はミックスジュースでぇーす!」

 あの浅尾っちからそれだけ聞き出すとは、さすがくノ一やな。しかし欲しいものはよう分からんで。マカロン以外っちゅーのも範囲が広すぎる。となると……選択肢はひとつや!

「よし……ほんなら、ミックスジュース大作戦でいくでーッ!」
「いえーい!だーいさーくせーん!」

 っちゅーわけで、浅尾っち誕生日パーリーのメインディッシュはミックスジュースに決定した。ディッシュちゃうけどな。細かいことはええねん。固形物は無理らしいし、ミックスジュースで栄養つけてもらうんや。

 これは浅尾っちのためだけの作戦やないねん。おれと浅尾っちとヒデとヨネ。この4人の結束を強める目的もあるんや。

 おれら現役組は他の連中から距離を置かれとる。自分が苦労して入ったところに、あっさり一発合格かましたんや。何となくおもろない気持ちになるのは当たり前やしな。

 浪人した人間の方が、長いこと絵に向き合うてる。技術で現役生に負けるわけないっちゅープライドがあんねん。せやから馴れ合いを嫌っとるんや。

 大学1年言うても、ほとんど大人の集まり。高校までのように若さと勢いで仲良うなれる感じでもない。ほんなら、せめて現役組だけでも絆を深めたいやん?藝大ライフをエンジョイするためにもな!

 っちゅーことでッ、また時空を飛ばして18日!浅尾っち誕生日パーリー当日や!

 おれはこの日のためにミックスジュースの巨匠と呼ばれる人物に弟子入り……することなくッ!我流で最強のミックスジュースに辿り着いたのであるッ!Fuuu!さすが天才!

 学食でミキサーを借りて、準備万端。あとはヒデが上手いこと浅尾っちを連れてくるだけやで!

「んふふぅー楽しみだねぇー」

 ヨネもおれとは別に特製ジュースを作ったらしい。飲み比べ対決やな!

「ごめんね、時間もらっちゃって……」
「別にいいけど、なんで学食なんだよ」

 お!ヒデと浅尾っちが来たで!いやッ!ドキがムネムネッ!
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