小林、藝大行くってよ
 しかしなんやかんや言いながらも、優しいヒデはスマホを手に取った。

 ホンマええやっちゃ。これでまだチェリーボゥイやなんてなぁ……藝大7不思議の中に入るんちゃう? あ、ちなみにおれはチェリーちゃうで!恋多き男やからな!
 
「……やっぱり出ないや」

 しばらくしてヒデが苦笑する。そらそうやろな。休み時間に、わざわざ出るわけないな。

「あはは! いいよいいよ、ありがとう! 同じ学校にいるんだから、いつかどっかで会えるでしょ」

 なんや、リンはサッパリしたヤツやな。まだ男神ショックから完全に立ち直ったわけやないが、ある意味でおれは見る目があったのかもしれん……たぶん。

「ていうかさ!一佐だっけ? 昨日、上野公園で朝飯食ってたよね!?」

 突然、リンの大きな瞳を向けられる。あかん、キュンとしてしまうッ! やっぱり可愛いッ!

「せ、せやな。おれのハンカティーフを拾ってくれたな」
「ハンカティーフって! ウケるー!」

 腹を抱えてゲラゲラ笑うリン。うむ、まごうことなき男子である。一気にキュンが冷めたわ。

 どうやらあの時、リンは教授のところへ行くために急いどったらしい。せやから学校まで猛ダッシュやった、と。
 なんにしても、おれの恋は見事に散っていったわけや。たった2日で。儚いもんやで。

 リン達は飯を食い終わると、3限目の授業へ行くため学食を後にした。ちなみにおれらは全員、次は空きコマ。偶然やけどな。

「なぁんか大人しかったねぇ一佐くん」
 
 ヨネはスマートに3人と連絡先を交換しとった。さすがのコミュ力やん。

「いっつもはお喋りマシンガンなのにぃー」
「女神が男神やったさかい、そらショックを受けるやん。おれはナイーブなんやで?」
「ナイーブ……なんだ……」

 なんやヒデ、その顔は。失礼やな。一佐と書いてナイーブと読むのを知らんのか?
 しかし失恋とは、男の魅力をグンとアップさせるエッセンスや。苦い経験を経て深みが出るねん。ふっ……またモテてしまうな。

「そやけど……なんやおれらの藝大ライフは、浅尾っちを中心に回っとるなぁ」

 まさかリンと浅尾っちに繋がりがあるなんてな。
 いや待てよ。むしろ、おれと浅尾っちが運命の相手なんちゃう!?キャーッ!
 
「んふふぅー浅尾きゅんってーなぁんか不思議な魅力あるもんねぇー」
「そやねん! 気ぃついたら浅尾っちのこと考えてしまうねん!」
「それこそ恋じゃないのぉー?」
「えっ…………トゥンク…………ってなるかいッ! おれは可愛い女の子が好きやっちゅーねんッ! 浅尾っちに対する気持ちは尊敬と興味や!」

 おれの恋愛対象は異性やからな! 残念ながら、読者のみなさんが期待するようなBL展開はないねん。美男子同士の恋愛が好きな諸君、すまんな。
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