小林、藝大行くってよ
いざ、藝祭
 入学から3ヶ月余り。試験を経て、あっちゅーまに前期が終わった。

 前期の実技は百合と菊の植物制作、随身庭騎絵巻(ずいじんていきえまき)の模写、動物制作の3つで、おれが最も輝ける動物制作では、2人の教授が大絶賛してくれた。もちろん、描いたのは鳥やで。

 植物制作と模写では、かなりこき下ろされた。せやけど自分を見失わず、その時出来ることに全力を注いだ。

 そう。おれは鳥が好きなんや。世界一の鳥を描くためにここへ来たんや。

 もちろん課題の制作も一生懸命やるで。そこで悩んだことも糧になるからや。もしそれで上手くいかんくても、落ち込んだりせえへん。反省はするけどな。

 描きたいものが明確に定まっているのが羨ましい――浅尾っちの言葉を思い出すと、胸がムズキュン! ってなる。自己紹介の時に話しとったもんな。絵に自分を投影でけへんて。

 あんだけ才能に満ち溢れとって、あんだけ時間を惜しまず勉強しとるのに、それでも悩みを抱えとる。

 浅尾っちはそれを隠すことなく、他人のいい部分は積極的に褒めて吸収していこうとしとるんや。その姿勢に、おれはめちゃくちゃ刺激を受けた。

 やっぱり藝大に入ったのは大正解や! その気持ちは、日に日に強くなるばかりであった!

 そしてもうすぐ、おれが藝大を目指した理由のひとつでもあるアレが始まる。藝大生がガチの情熱を燃やす3日間。そう、GEISAI! 藝祭やッ!
 
「一佐、掲示板に役割分担が貼り出されたみたいだよ」

 実習室の片付けをしとると、ヒデが呼びに来た。

「お! さっそく見にいこか!」

 おれら1年生には、大切な役目がある。藝祭の幕開けを告げる御輿パレードで、ボルテージをアゲアゲにすることや。

 そしてパレードに使う巨大な御輿は、夏休み期間を利用して1年生が制作する。ちなみに、美校と音校をごっちゃにした4つのグループに分かれて作業するんやで。

 パレードのときに着る法被も手作りするし、藝祭はおれら1年生のためにあると言っても過言ではないのであるッ!

 っちゅーわけで構内掲示板を見に行くと、日本画専攻1年の分担表が貼ってあった。
 
「一佐は法被隊だね」
「よっしゃ第1希望ッ! ってなんや、ヒデと浅尾っちは御輿隊か」
「だって法被隊ってパフォーマンスするんでしょ? だから御輿隊か出店隊で希望を出してたんだよ。多分、浅尾も消去法でしょ」
「パフォーマンスをするから法被隊がええんやろ!」

 パフォーマンスといえば、エンターテイナーISSAの出番! 上野がISSAに恋をするッ! キレッキレのダンスで世界中の女子を虜にするチャーンス!

 ……おっと、そこの君。隊ってなんやねん? て顔しとるな。仕方ない、説明してやろう。

 藝祭の準備は、3つの隊に分かれて進めていくんや。

 まずは御輿を制作する御輿隊。めっちゃ大変やし、いっちゃん人数をかけなあかん。お次が模擬店の運営を担当する出店隊。そしてチームの法被を作り、藝祭初日に御輿とともにパフォーマンスをする法被隊や。

 1年生は必ずどこかの隊に入って、9月頭の本番に向けて青春の汗を流すのであーるッ!
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