小林、藝大行くってよ
 拳を高くつき上げ、おれが最後のポーズを決めると、観衆から割れんばかりの拍手が沸き起こった。
 カンペキ。カンペキや。練習の成果が、いや練習以上のものが出せたで。おれは思わず、身震いした。

 学長をはじめとする審査員、さらにほかのチームの連中からも、割れんばかりの拍手と歓声。それはしばらく鳴りやむことなく、おれの体を包み込んでいた。

「一佐、最っ高じゃん!」
「ホントホント! めちゃくちゃダンス上手いね!」
「すげぇ動きだったわー!」

 仲間の元へ戻ったおれを、リン、優菜、悠人が拍手で出迎える。苦しゅうない、もっと賛美するがよい!
 そして苦楽をともにしたマイメンたちが集まり、互いの健闘を称え合う。これや。これぞ青い春や。おれが求めていたものやッ!

 御輿づくりにパフォーマンス、めちゃくちゃやりきったで。いや、藝祭ははじまったばかりやけどな。おれにとってはクライマックスやねん。
 
 もう大賞を取れんでも、やりきったからええ。
 あ、説明しとくとな、御輿は毎年賞を競ってるんや。大賞以外にもぎょーさんあるさかい、なにかしらの賞は必ずもらえるんやけど、やっぱりみんな大賞を狙いにいっとる。

 駄菓子菓子、賞はあくまでも結果。大切なんは、賞を取ることちゃう。高みを目指して一致団結し、いいものをつくり上げようとする心意気や。そう思っとったら……。

「今年の上野商店街連合会賞、大賞は……日本画・工芸・邦楽・ピアノの、ヤマタノオロチでーす!」

 そう。見事大賞を受賞したのは、おれたちの御輿であった。このおれのパフォーマンスが高評価だったのだろう。
 歓喜に沸く仲間たち。祝原と吉鶴が泣きながら抱き合い、おれはリンたちとハイタッチ。ヒデとヨネはバンザイしとる。浅尾っちは、半分寝とる。

 そして総評のため、学長が壇上へ上がった。

「えー、今年の藝祭のテーマは『激!』です。激しさと静けさは、表裏一体。静けさの中に激しさがあり、激しさの中に静けさがある。まさに、そのテーマを体現した作品ばかりでした。まぁつまり……」

 そこまで言うと、学長はマイクのスイッチをオフにして、マイクスタンドの横へ立った。

「お前ら全員、最っ高じゃあぁぁ~!!」

 学長渾身の絶叫が、竹の台広場に響き渡る。そしてそれに呼応して、おれらも一斉に歓声を上げた。
 こうして、われら1年生がボルテージをアゲアゲにして、藝祭の幕が開いたのである!

「いやぁ、仕事のあとの一杯は格別やなぁ!」

 大役を果たしたあとは、ヨネプロデュースのコーヒースタンドでブレイクタイムや。ヒデだけやのうて、浅尾っちもおるで。誘うたら、コーヒーなら飲みたい言うて来てくれたんや。ルンルンッ!
 
「ウマいな、このコーヒー」

 浅尾っちはブラックコーヒーをひと口飲んで頷いた。ヨネが、右手でメガネを上下させて喜んどる。
 
「来年もコーヒースタンド出すからぁーそのときは浅尾きゅんも手伝ってくれないかなぁー?」
「裏方ならいいけど」
「ほんとぉー!? やったぁー!」
「俺も手伝うよ、ヨネ」
「おれも、おれも! 客引きなら任しとき!」
「ヒデちゃんも一佐くんも、ありがとうー! 嬉しいなぁーみんなでやろうねぇー!」

 なんや、和やかな空気やん。やはり御輿制作を通じて、絆が深まったんやな。
 浅尾っちも10回に3回は、おれの言葉に耳を傾けてくれるようになったしな! 大進歩やッ!

「でもまずはぁ……今年の藝祭を楽しもーう! イエーイ!」
「イエーイ!」

 おれはヨネと一緒に右手を振り上げた。
 そう。まだ藝祭ははじまったばかり。つまりおれらの夏も、青春も、まだまだこれからなのであったッ!
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