小林、藝大行くってよ
 再び大学へ戻り、今度は美校の正門を抜けて右手、大学美術館の更に奥の建物へ進む。うおおキャンパス内を歩いとるだけやのに、オラ、ワクワクすっぞ!

「えっと……絵画棟3階の日本画実習室2-307……あ、ここだ」
「よっしゃ、10分前行動やな!」

 実習室に入ると、既にほとんどの生徒が集まっとった。浅尾っちは、まだおらんな。

 結構なオッサンっぽい奴もおる。社会人やってから入る人間も、ちょいちょいおるっちゅー話やしな。日本画専攻25人のうち男は3分の1ぐらいか?圧倒的に女が多い。トキメキチャンスやん!

 お、浅尾っちがゆる~りと入ってきたで。女子生徒の注目を集めとる。くそぅ、イケメンめ!なんやその溢れ出すフェロモンは!ホンマに18歳なんかッ!?

 おっと時間になったな。前に立っている無精ヒゲのオッサンが、壁掛けの時計を見て軽く咳払いをした。

「えー刻限になりましたので始めますよー。来ていない人いたら手あげてくださいねー。あ、いない人は手上げられないかッ!あははははッ!」

 なんやこのオッサンは。ひとりで腹抱えて笑いはじめたで。その横におる女の人は、めっちゃ無表情やし。おもろすぎるやん藝大。

「あ、僕はですねー日本画第1研究室助手の牧です。気軽にマキちゃんって呼んでくださいねー」
「私は日本画第3研究室助手の清原です。気軽にキヨちゃんとは呼ばないでください」
「ブハッ!」

 思わず吹き出すと、一斉に注目を浴びた。え、笑うたんはおれだけかいな。めっちゃおもろいやん、この助手コンビ。

 牧助手……いやマキちゃんは、おれの反応に嬉しそうな表情を浮かべた。キヨちゃ……清原助手は凍てつく無表情。浅尾っちみたいやな。

 それから大学の概要や藝大アカウント利用案内、履修登録についての説明を受けた。うーん、大学生って感じやなッ!なんの授業を履修するか悩んでまうなぁ。
 
「……で、最後に大事な連絡ですよー。いよいよ明後日月曜日からキミたちの藝大生ライフが本格的に始まりますがーその前に自己紹介してもらいます」

 お、自己紹介?来たで来たでおもろそうなイベントがッ!

「ゆーても喋るの苦手って人もいるでしょ?だから、これが私だッ!っていう“自分を表現した作品”を1点選んで持ってきてくださーい。そんで喋る内容は何でもいいんですけど経歴とか軽く言う感じですかねー」
「作品は現物でもデータでも構いません。データの場合はUSBメモリかGoogleドライブに保存してください。自己紹介の持ち時間は、ひとり5分です。もちろん教授も同席しますので、そのつもりで準備してきてください」

 自分を表現した作品か……こりゃ悩むなぁ。帰って早速準備せなな!

 そしてゆる~いマキちゃんとAIのような清原助手の説明が終わり、本日はこれにて解散。浅尾っちの姿は気がついたらなくなっとったから、おれはヒデと一緒に道を教えてもらいながら帰った。
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