幻冬のルナパーク

プロローグ

伊豆の伊東にある温泉の脱衣所で、湯上がりで早くなった呼吸を整えた。



温泉は建物の中に2か所あり、ひとつは眩しいくらいに紅いハイビスカスやヤシの木が周りに生えた、南国風の露天風呂。



もうひとつは青空と太平洋を一望する、碧き絶壁にいるような気分になる露天風呂だった。



アルカリ性のお湯で肌は赤ん坊のようにツルツルだ。





 私が洗面台に片手をついて深呼吸し顔を上げると、目の前の大きな鏡には憂いを帯びた瞳をしたひとりの女性が映っていた。



少しつり上がった大きな瞳をして、鼻筋が通り薄くて紅い唇をしていた。顔には何の手も加えられていない黒い濡れた髪がしっとりとかかっている。



胸元には、ふっくらとした左右対称の乳房が付いていた。





私は自分が男に生まれたかったとか、女の姿に違和感があるなどとは思ったことがない。



いままで何人かの男性とも付き合ってきた。



だけど今、どうしようもなく心惹かれているのは、同じ職場で3年を過ごした同性の女性だったのだ。
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