幻冬のルナパーク

実家へ

「なんだか心配だわ。やっと家を出たと思ったらもう仕事辞めて戻ってきて」



病院の寮から引っ越しを終えて実家のリビングでくつろいでいると、母親が言った。



ちょうど昨日、父親に寮の荷物を車で運んでもらい、部屋を引き払ってきたところだった。





実家は横浜のはずれにある小さな縦長の家だ。周りには同じような住宅がひしめき合っている。



「3年近く頑張って働いたんだよ。また半年後には就職する予定だし。それまでお世話になるくらいいいでしょ?」   



私が麦茶を飲みながら言った。



「まあ、別にこっちは何の問題もないわよ。お父さんもあんたが帰ってきて喜ぶんじゃない」



「そうかな。正月はお兄ちゃん帰って来てたの?」



私は8つ歳の離れた兄のことを聞いた。



「ええ。でもうちにちょっと顔を出したくらいで、すぐに愛知に戻っちゃったけど。あんたも帰って来れれば良かったけどね」



「仕方ないよ。正月は仕事だったの。看護の仕事に祝日なんて関係無いからさ」





やがて夕方になると父親が仕事から帰ってきて、3人で夕飯を食べた。鶏肉のシチューだった。



空いている時間で引っ越しでできた段ボールの中身を片付けた。



それが終わるとようやく私の生活には静寂と退屈が訪れ始めた。

< 12 / 24 >

この作品をシェア

pagetop