幻冬のルナパーク

普通の女の子

「それにしても、私は今まで自分のことをごくごく平凡で真面目な女の子だと思って生きてきたから。今のこの状態がショックというか」私がストローでレモンティーを飲みながら言った。



「あはは」彼が綺麗に並んだ歯を出して笑った。



「僕は思うんですけど、この世にひとりたりとも、社会や会社が求めるようなまじめで無害で偏った価値観もなくて、まるで鋳型に押し込めて作ったような人間なんていないと思いますよ。水上先輩はテレビのニュースや週刊誌を見ていて思いませんか。眼鏡をかけたおとなしそうな女の子がコンビニや職場の更衣室で盗みを働き、穏やかで無害そうな男性が女児を誘拐し暴行する。人間なんてその程度のものなんだって。僕はよく思いますけどね」   



そう言って彼はアイスカフェオレを一口飲んだ。



「そっか。みんな何かしら普通じゃない部分を抱えて生きてるのかな」



「そうだと思いますよ。それにしても、まさか急に水上先輩に呼び出されてこんな相談を受けることになるとは思ってもみなかったですね」彼が感慨深げに言った。「先輩って大学生の時は確か彼氏がいましたよね」



「うん、いたよ。そんなに長く続かなかったけど」



「男とは何人か付き合ったことがあるんですね」



「うん。むしろ男の人としかないよ。自分の身体に違和感を持ったこともないし」



「そうですか。それで、彼氏さんとはどうして別れちゃうんですか?」



「うーん、向こうから言われてなんとなく付き合うんだけど、今思えばそれほど好きじゃなかったのかな」私が考えながら言った。

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