幻冬のルナパーク

熱き孤独

休みの日になると、図書館で借りていた旅行雑誌を持って朝から近くの喫茶店にでかけた。



歩道には茶色く干からびたプラタナスの葉が散り、それらを踏みしめて歩くと冬の香りがした。





喫茶店に入ってコーヒーを待つ間、病院で一緒に働いていた人たちのことを思い出した。



仕事を辞めるということはただ収入がなくなるだけでなく、職場での人間関係もすべて失うということだ。



まるで親友が遠くへ引っ越してしまった後のような気分になりながら、持ってきた旅行雑誌をぱらぱらとめくった。





そういえばちょうど1年くらい前だっただろうか。



仕事中、病院の廊下を歩いていると病室の中にいる絵海の姿を見つけた。



患者のベッドのそばで、彼女は涙をこぼしていた。



私は驚いて少しの間立ち止って離れた廊下から絵海を見ていた。



話し相手は患者のおじいさんで、話の内容は分からなかった。





だけど絵海のうつむいた横顔、涙をぬぐう細い指先、おじいさんのたんぽぽの綿毛のような白くて短い髪、病院の消毒薬のにおい……そんなものが急に私の頭に鮮やかによみがえった。





気が付くと、私はずいぶん絵海のことを考えていた。



その時、突然私の身体の奥にいる本当の自分自身みたいなものが、激しく心臓をノックするのが分かった。



まるで心臓が暴れているみたいだった。



次に、大きな寂しさと哀しみの波が胸に押しよせてくるのを感じた。



まるでこの広い世界に自分がたった1人でいるような強い孤独感だった。



いったいこの感情はなんなのだと、私は動揺した。



しかし結局その問いの答えは、運ばれてきた果実のような香りのするコーヒーを飲み終わっても、見つかることはなかった。

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