アラ還も、恋をするんです。
昼休み前に陽子から連絡があった。
何時ものように、少し話がしたいと。

旦那の不倫相手の子供を病院に入れたくないし、どうすればいいのかと。
いや、今まで話は聞いていたが他所の病院のこと、とやかく言えるもんじゃない。 
と、突然、
「別れたい。こんなはずじゃ無かった。
別れたら、もう一度匠とやり直したい」
いや、噂話は聞いてはいたけど、あくまで噂話として。
そんな気持ちは全く無い。
「今夜、抱いてほしい」
いやいや、姉貴や看護師長が言ってたのはこのこと?
また回りは知ってたけど俺だけ気づいてなかったってやつ?
由佳と出会って教えられた。
相手を傷つけてはダメだけど、言わないと伝わらないことがある。
言葉にしないとダメなんだと。
「ごめん。今、大切な人がいる」と。
「匠、変わったね
今までは家族と病院だけが大切だったけど、
今はいるんだ。
結婚している時ときでさえ、私のこと大切じゃなかったのに」
そう感じてたら申し訳ない。
でもそれはきっと、お互い様だったと思う。
「…、ごめん」
これからは会うのは控えないと。

顔を上げると向かいの店のガラス越しに、由佳がいた。
多分目が合ったと思う。

「ごめん、午後の診察があるから」
本当は今、由佳の許に走っていきたい。
でも今は、勤務中。
夜、必ず会えると信じて、怒っている陽子を置いて病院に戻った。


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