離縁された出戻り令嬢ですが、極上社長から最愛妻に指名されました。
離婚されまして、出戻り令嬢になりました。


「――桃逢さん、これこちらに置いておきますね」
「ありがとうございます、カオルさん」
 手芸用品の通信販売で購入した刺繍糸が届いたらしく家政婦のカオルさんが段ボールを作業テーブルに置いた。
 私、花木(はなき)桃逢(ももあ)は離れの家で暮らしている。離れで、暮らし始めたのは二年前に離婚して出戻った時だ。
 花木グループの前社長だった父・逢助(あいすけ)の娘として生まれた私は恵まれた環境で育った。だが、交通事故で両親が亡くなり父の弟の慶介(けいすけ)伯父さんが社長となって伯父さんとその奥さん、私よりも二つ年上の従姉が住むようになった。初めは同情してくれていたのか優しかったから良かったが、段々と私は家政婦扱いになり居場所を失った。
 そんな時に上がったのは従姉との縁談、縁談相手である白浜財閥家の御子息である白浜(しらはま)和寿(かずとし)はチャラ男で若い大学生くらいの女の子が好きだからと従姉の身代わりとして結婚。
 浮気されて終わりだろうと想像していたが、早くも一年で「欲情しないんだよ、お前」と言われ離婚となり実家に出戻った。
 そんなこんなで、出戻り令嬢となった私は伯父さんに恥晒しだと罵倒され離れの一軒家に追いやられて……今に至る。
「次の図案は、えっとカモミールの花刺繍ね」
 彼らは追いやってやった厄介者、皆は離れに追いやられた可哀想な人と思っているだろうが私はそうは思っていない……まぁ、腹が立つこともないとは言えないけれど好きな刺繍ができるから充実した生活だ。
 二年もここに住んでいるからかここには大量の花刺繍を刺したハンカチやトートバックにブローチなどのたくさんの作品が段ボール四個ほど詰まっている。
「桃逢さん、今日は外に出てはいけないと奥様から」
「そう。わかったわ、ありがとう」
 まぁ、私はずっと閉じこもっているからそんな言いつけは言われなくてもしている。それに外に出るよりも室内で過ごした方が有意義だ。


 そんなある日のこと、ほとんど尋ねてこないこの離れに訪問者が現れた。
「……お従姉さま、どうかされたんですか?」
 伯父さんの娘である雫久(しずく)さま。普通ならこの離れには近づかないのだがたまにいらっしゃるのだ……いつものことだろう。
「これ、またいつものように刺繍して欲しいの。それと、このハンカチにも」
 彼女の手には白色の丸襟のワンピースに男物の紺色のハンカチがあった。
「明日までにお願いするわ」
「かしこまりました、お従姉さま」
 私には基、拒否権はない。彼女に従う以外は選択肢はないのだ。
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