離縁された出戻り令嬢ですが、極上社長から最愛妻に指名されました。
彼の想い



 先程まで、離れの一室にいたはずなのになぜか私は高級車の後部座席に座っていた。隣には、さっき求婚してきた男性。
 昔、私が『つーくん』と呼んでいて世間的には幼馴染といわれる関係だった。
「あの、藤臣さま。本当に私と結婚するつもりですか?」
「もちろん」
 車の中では、彼は指を絡めて手のひらを密着させて手を繋いでいてそれだけでドキドキしてくる。元夫とはこんなふうに密着することはなかったから緊張する。
「何か訳ありですか」
「訳ありじゃない、ただ君のことが好きなだけだ。藤臣で生まれたが、次男だし家は継ぐことはできない。だからもあちゃんに相応しい男になろうと留学して海外支社で経験を積んでから求婚しようとしたのにいつの間にか結婚していた」
「……いつの間にかって、藤臣さまが突然留学に行くって言っていなくなっちゃったし好きとも言われていません」
「藤臣さまはやめてくれ。以前のように呼んで欲しい」
「では、紬翔さんと呼ばせていただきます」
 あまり納得のいかない表情をしていたが、紬翔さんはカバンから一つの封筒を取り出す。その中にはドラマとかで出てきそうな婚姻届が出てきて片側はすでに記入されていた。
「あとはもあちゃんにサインしてもらうだけだよ。花木社長一家にも了承してもらったし、ちなみにうちの両親も賛成してもらっているし早く求婚しに行くように言われたくらいだ」
 伯父さん一家も了承している……というか了承させられたと言った方がいいと思う。屋敷を出るときも、伯父様と奥様はビクビクしていたし従姉は文句を言っていたけど彼が私には聞こえないように一言いえば真っ青になり黙ってしまったし。それに、記入済みの婚姻届に彼のご両親からも賛成されるってことは完全に外堀を埋められている。
 別に彼が嫌いなわけじゃない。ただ、結婚というものが懲り懲りなだけ……だってもう、伯父様たちの目に入らなきゃ自由になれたんもの。それなのに私は、彼にときめいてしまっている。
「……ぁ、……」
 なんて返そう。なんて言ったらいいのかな……そう頭の中で言葉を巡らせ俯いていると名前を呼ばれて頭を上げる。
「もあちゃんは、腹は立たないのか? 現社長一家に花木家を両親が大切にしていた物を乗っ取られて、挙句には理不尽な理由で離縁させられた」
「……っ……」
「俺なら腹が立って仕方ない。だけど、もあちゃんは違う。優しい君だからあの離れで一生静かに過ごすつもりだっただろ? でも、俺は許せない。幼い頃はよくしてくれたし優しかった。よく話をしていたんだ。これからの花木家について」
 そう紬翔さんは言って私以上に怒ってくれていた。
 すると、一度離れた手に触れ優しく持ち上げあげる。そして、私の手のひらにキスを落とした。
「優しいあの二人に報いるためにも力を貸してほしい。そのために結婚したいんだ」
「紬翔さん……」
「それに、子どもの頃から君を慕っている気持ちは変わらないよ。だから、どうか妻になってほしい。幸せにするから」
 彼の真剣な眼差しに私は頷いてしまっていた。
 
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