離縁された出戻り令嬢ですが、極上社長から最愛妻に指名されました。
元夫と従姉


「……桃逢さま、これでどうでしょうか?」
「素敵だわ! ありがとう」
 私は、花木桃逢改め藤臣桃逢。
 紬翔さんの妻になって早くも三ヶ月が経ち、彼の住むお屋敷にも慣れてきた今日この頃。
 今日はフジオミデザインの謝恩パーティーという名の紬翔さんの結婚を祝う会……すなわち、私のお披露目会が行われるため着飾っている。
 着ているのは、フランス製リバーレースで上品にまとめたドレスで光沢のあるのサテンにゴールドのリバーレースを重ねられた素材の良さが一層引き立つドレスだ。後は背中が美しく見える深めのカットで、どこから見られても完璧なスタイルの最高級のパーティードレス……これがちゃんと着こなせているのか不安だ。
「お綺麗です、奥様。では、髪を整えていきますね」
「お願いします」
 緩いシニヨンにパールの髪飾りをして、首元には藤臣家の妻の証だという深い青色から藍色を持ち黄鉄鉱の粒を含んで夜空のような輝きを持つラピスラズリの石の付いたネックレスをした。耳には同じ石を使っているイヤリングがある。
 これはお義母さまから譲り受けた代々受け継がれている物でこれをつけているということは現当主をはじめとした者が私を認めているという証拠なのだと教えて下さった。
「では、紬翔さまを呼んできますね」
 そうヘアセットをしてくれた方がドアを開け出て行こうとしたが、その人はもう扉の目の前にいたらしくすぐに入ってきた。
「紬翔さん、お待たせしてしまってすみません」
「いや、俺が好きで早く来ただけだよ。とてもきれいだ。俺の奥さんは何着ても似合うから困るなぁ」
「言い過ぎです。ふふっ」
 そう言う紬翔さんこそ、ネイビーのスーツが良く似合っている。かっこいい。

 私はこの三ヶ月で、彼という沼に落ちてしまった。
 好きになれるのかと心配していたが、積極的に迫ってくる彼にいつの間にか落ちて好きになってしまった……だけど、まだ好きだとは言っていない。今日が終わったら伝えようと思ってはいるけど、うまくいけばの話だ。
「……桃逢? 大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ、ありがとう」
「体調が悪くなったら言ってよ。じゃあ、会場に向かおうか」
 私たちは屋敷から出発すると、会場のホテルKARAHASHIに一時間ほどで到着した。


 会場のホテルKARAHASHIは、都心でも最高級と言われているラグジュアリーホテル。そのホテルの高層部には大ホールがあり、そこで行われる。
「とても素敵ですね、紬翔さん」
「あぁ、ここは父のお気に入りでよく宿泊をしているよ」
「そうなんですね」
 天井には煌びやかなシャンデリア。立食式だからか並べられているテーブルには、豪華な食事がある。
 キラキラした料理を横目に、彼のエスコートで私たちは出席して下さった方々に挨拶をしに回った。
 紬翔さんは今からのことで相談があるらしく別行動となっていたが段々、開始時間が迫る中ギリギリの時間でやってきたのは元家族の従姉と元夫だった。
 私はまさか従姉をエスコートしているのが元夫で……驚きのあまり、声が出なかった。
 だってあんなに若い子がいいと言っていたのに私より年上の従姉を連れて鼻の下を伸ばしている。
 それになぜ、彼らがここにいるのだろう。


  ***


「あら、桃逢。久しぶりね」
 私に気付いた従姉はそう話しかけてきた。
「お久しぶりです。雫久さん、それに白浜さま」
 雫久さんはわかったらしいが、元夫は私に気付いていない……仮にも妻だったのに。
「……えーっと、誰でしたっけ……」
 まぁ、彼が興味があるのは若い女だ。こんなパーティーには興味ないだろう。どういう経緯で知り合ったんだろう……
「あら、私のこと忘れてしまったのですか? 私、藤臣桃逢と申します」
「ももあって……もしかして」
「はい。仮にも元妻に誰だったかとは失礼ではないですか?」
「桃逢はもっと地味で……っ」
 確かに地味ではあったし、こんなふうに挨拶は自分からしない。夫をサポートする良き妻の役割だった。
 だけどもう、違う。
「――おや。どこかで見たと思ったら、白浜の御子息ではないですか。それに花木のご令嬢」
「あ、紬翔さん」
「待たせてごめん、桃逢。それで、あなた方は同伴者はいらっしゃらないのですか?」
 彼の言う同伴者とは、このパーティーの規則で参加の上のルールの一つで招待状持参の上で参加者と家族や婚約者などという親しい間柄ではないといけない。
 だからそれを言ったのに、彼らは黙り込んでしまった。
「騒がしいと思ったら、侵入者が紛れ込んでしまったみたいだな」
 そう言ったのは紬翔さんの父であり藤臣家の当主だった。
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