隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて


「相野さんは僕の初恋の人なんです。再会できるなんて思っていなかったので驚いています」
 若きエースなんて言われている岩本圭介(いわもとけいすけ)君が爽やかな風が吹くオフィスの屋上でさらりと発言した。
 この春から配属され一ヶ月が過ぎたところ。
「でも、恋人がいるんですね。相野さんを奪いたくてたまりませんが、相野さんが今幸せなら邪魔をしません。笑顔でいてくれるのが一番ですから」
 岩本君の私を想ってくれる熱いメッセージが胸の奥底に届いて泣きそうになった。
――笑顔でいてくれるのが一番
 あれ? 私、最近、心から笑っていただろうか。
「あぁ、でも……悔しいです。ずっと忘れられなかったので」
 私のことを知っているような口ぶりだったが、顔を見てもこんなにイケメンの知り合いはいない。
 彼は背が高くてスーツの上からでもほどよく体が鍛え上げられているのがわかる体型だ。サラサラとした艷やかな髪の毛は太陽の光が当たると輝いて見える。綺麗な二重に高い鼻と薄い唇。まるで貴族とか王子とかみたい。
 対して私、相野真歩(あいの まほ)は肩までのストレートヘアーをハーフアップしていることが多く、奥二重と小さい鼻と口。体型はごく普通。どこにでもいる特徴のない人という感じだ。
 岩本君の容姿があまりにも整っているから隣を歩くのが恥ずかしいが、教育係なのでいつも隣りにいる。
「気持ちはすごく嬉しいよ、ありがとう。でも、どこで会ったのかな?」
「忘れてしまいましたか?」
「うん、ごめんなさい」
「残念です」
 捨てられた子犬のような顔をされて、罪悪感で満たされていく。
「本当にごめんなさい。それで何年前にどこで出会ったのかな」
「僕のことを考える時間を増やしてほしいので思い出してくれるまで、教えません」
 小悪魔的な笑みを浮かべた。
 かわいいと思ってしまうのは、彼は私よりも五歳年下だからだろうか。
「では、お疲れ様です。先に戻ってますね」
 清々しい笑顔を残して彼は去って行った。
「何だったの? 告白され……た?」
 直球の言葉を投げかけられて私はしばらくぼんやりしていた。
 どちらにしても、私には将来を約束した恋人がいて同棲もしているのだ。申し訳ないけれど、岩本君の気持ちに応えることができない。
 告白されたのは予想外だった。これから気まずくなりそうだけど、岩本君は日本での研修を終えたらアメリカに行く。それまでの間、何とか乗り切ろう。
 さ、仕事に集中しようと頬をパンパンと叩いて部署に戻った。
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