隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて


 間もなくして私と修一郎が別れたという噂があっという間に職場内に広がった。
 結婚が秒読みだと言われていたので驚いている人もたくさんいたようだ。
 修一郎と私は職場で仕事のこと以外は話をしなかった。目はたまに合ったけど、そこに過去のような特別な感情はない。

 家を出てから三日後。
 廊下を歩いていると修一郎が他の部署の同期と話をしているのが聞こえた。
「別れた女と同じ職場で働くって、やりにくいったらありゃしない」
「だよなー」
「会社、辞めてくれないかな」
「それは難しいんじゃないか? 相野さん、うちの会社で結果出してるしさ」
「まぁ、そうだよな……。じゃあ、辞めたくなるように仕向けるとか?」
「それ最低じゃん」
 ひどいことを言って笑っている。
 私だって一緒に働くなんて本当は嫌で嫌で仕方がない。転職が一瞬よぎったけれど、別に悪いことをしたわけではないのだ。
 気まずいのはお互い様だし、職場では仕事以外のことを話す必要はないし、私はこの会社で結果を出したいと思っていた。
 過去に他の会社から引き抜きに合いそうになったことがあるが、私は採用してくれたこの会社で夢を叶えたいと思って首を縦には振らなかった。
 それほど、今働いてる会社のことが好きだった。そしてここだからこそ叶えられる夢があると思っているのだ。
 嫌な時間も時が解決してくれる。時の流れに身を任せるしかない。
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