隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
* * *
朝まで残業したりネットカフェに泊まってなんとか食いつないできたけれど、給料日まであと一週間。
ついに私のお財布の中は残り十二円になってしまった。
もうこれ以上どうすることもできない。このままでは本当に倒れてしまう。
行政機関にお世話になろうとも思ったが、助けたいと言ってくれている人がいるので、まずはそこを頼るのが筋である気がした。
私は恥を忍んで岩本君のスマホに電話をかけたのだ。
『もしもし』
「岩本君……お腹が空いて死にそう。助けてもらえませんか?」
『もちろんです』
会社の近くの公園で座り込んでいるとすぐに彼は迎えに来てくれた。まるでスーパーマンみたいに登場するのが早かった。
ミルクティーと肉まんを手に持っている。
「まずはこれを食べてください」
私は恥ずかしいけれど空腹には勝てずにそれを頬張った。美味しくて涙が出そうになる。
「美味しい」
「よかったです。でも、どうしてここまで無理をするんですか?」
「まさか頼るわけにいかない。岩本君は後輩だし」
「そんなの関係ないです。困った時には近くの人に頼ることも大切ですよ。我慢しすぎで見ているほうが辛かったです。早くヘルプを出してほしかったなと」
プライドが邪魔をして頼ることができなかったけれど、岩本君は正しいことを言っている気がして私は素直に頷いた。
修一郎と付き合うようになってからは、自分を押し殺して彼のことを優先させることに重きを置いていたかもしれない。
「もっと自分を見てとアピールしてみてもいいと思いますよ。LOOK AT MEですね。パッケージたちのように」
予想もしていなかった言葉を言われたので私の胸の中にグッと刺さった。
思い返してみれば修一郎との交際時も自分の気持ちをちゃんと伝えてこなかったのだ。私という存在を消してしまっていたのかもしれない。
「真歩さんのイメージカラーは白です」
修一郎と同じことを言われて身構えてしまう。
「でも、僕は知っているんですよ。心の中や頭の中は色であふれているって」
私の中に隠れている素の部分を見透かされたような気がした。
「万人の前でとは言いません。僕の前では素直にいろいろな色を見せてください」
心が弱っていて。仕事も大変で。お金もなくて。
こんな状況の時に優しくされたら落ちてしまいそうだ。
でも岩本君は年下だし十月にはアメリカに行ってしまう。だから彼に恋はしたくない。
今は生命維持をするために、彼の家にお邪魔させてもらうしかない。
「住む場所が確保できるまでの間、お世話になってもいいですか?」
「もちろんです」
岩本君は手を差し伸ばしてくれたので、私はその手を握ることにしたのだ。