隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて

 連れてきてくれたのは会社の近くのタワーマンションだった。
 うちの会社は給料がいいほうだと思うけれど新入社員でこんなにグレードの高いところに住むのは不可能だ。
「岩本君のご実家って資産家なの?」
「まぁ……そうかもしれませんね……。深いことは気にしないでごゆっくりしてください」
 岩本君が住んでいる部屋は最上階だった。
 長い廊下を抜けるとパーティーができるのではないかと思うほど、広いリビングルームがあり、東京の夜景を見下ろすことができた。
 大きなテレビとソファーが置いてあり、キッチンの近くには六人掛けのダイニングテーブルが置かれている。
 一人で住むにはさすがに広すぎる3LDKだ。
「こちらの部屋、お客様が来たようにと作った部屋なんですが自由に使ってください」
「いいの? リビングの端っこを貸してくれたらそれで充分なのに」
「リビングで無防備に眠っていたら、それこそ襲ってしまうかもしれませんよ?」
 ニコッとするので身の危険を感じ私は素直に部屋を借りることにした。
「足りないものがあれば買いに行きましょうね」
「ありがとう。命の恩人だと思って必ず恩返しするから」
「恩返しですか。楽しみですね」
 穏やかに笑っている。
 部屋の中のものは自由に使っていいと言ってくれた。
 私は早速入浴をさせてもらいお湯に浸かった。今までネットカフェでの生活がたたっていて、体がすごく疲れている。久しぶりに筋肉がほぐれていくような感覚に陥った。
 リビングルームに戻ってくるとテーブルにはカットされたフルーツが置かれていた。
「どうぞ食べてください」
「岩本君が剥いてくれたの?」
「ええ」
「ありがとう」
 先ほどの肉まんでお腹は満たされていたけれど、まだ食べ足りなかったのでありがたくいただくことにした。りんごを口に入れると甘酸っぱさが広がって幸せな気持ちになっていく。
「美味しそうに食べますね。すごくかわいいですよ」
 フルーツよりも甘い視線を向けられて、 どう反応していいかわからなくなってしまう。
「い、いちいちそんなこと言わないで」
 恥ずかしくなって怒ったふりをして感情を隠した。
 岩本君も会社では見ない部屋着姿で、彼のプライベート空間に足を踏み入れているのだと実感する。
「お腹いっぱい。本当にありがとう。私はこれから仕事するから」
「コンペに応募する用のものですか?」
「うん」
「相野さんはなぜ、そんなに真剣に仕事に取り組めるんですか?」
 不思議そうな目をしていたので私は素直に答えることにした。
「大切な友達と約束をしたの」
「約束?」
「ええ。実はね、亡くなった親友なんだけど」
 ゲームのパッケージデザインをするのが友達と私の夢だったという話をした。
 岩本君は穏やかな表情をして何度も頷いた。
「相野さんは自分のためだけに頑張っているんじゃなくて、誰かのために頑張っていたんですね。きっとその心があったから消費者の人も相野さんがデザインしたパッケージの商品を手に取ってくれていたんじゃないでしょうか?」
「どうかな」
「ゲームパッケージも相野さんの作品が選ばれると言いですね。応援しています。夢を絶対に叶えてください」
「ありがとう」
 私は与えてもらった部屋に入ると、ノートパソコンを開いてアイディアを練った。
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