隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
次の日から一緒に住む生活が始まった。
岩本君がいつも朝食を用意してくれる。彼は料理が得意らしく和食も洋食も朝から出てくる。どれを食べても美味しくて幸せな気持ちになった。
朝食を終えると食べて一緒に通勤する。
同じ職場で働いてランチを共に過ごす。昼食代を浮かせるために家で簡単な弁当を二つ作るのが私の日課になっていた。
修一郎と交際するようになったのも、こうして一緒に長く時間を過ごし同棲することがきっかけだった。
私はまた同じことを繰り返すのではないかという恐怖に苛まれていた。また恋をして傷つきたくなかった。
初恋の相手だったと言われたけれど、どこで会ったかはいまだに教えてもらっていない。
仕事が終わって岩本君の家に戻り、夕食と次の日のお弁当を作っていた。
彼との生活は楽しくて居心地がすっかりよくなってしまっている。明日は給料日なので物件を探していかなければならない。
お金が使い果たし、お腹がペコペコな状態で転がり込んでしまったけど、今思えばクレジットカードで食べてしのいでいけばよかったのだ。だから給料が出たらまずは家を探して、光熱費やスマホ代金はクレジットカードを登録し食料品を買っていけばすぐに出て行くことができる。
どんなに古くてもいい。いつまでも甘えてるわけにはいかないので、目ぼしいところを見つけてオンラインで内覧させてもらうところを見つけるつもりでいた。
食事の準備を終えてリビングでスマホで物件を探していると、岩本君がバスルームから上がってきて、後ろから覗き込んできた。
「そんなに焦って引っ越ししなくてもいいですよ。今はコンペに出す作品のアイディアを考えるのが先ではないですか?」
「その通りなんだけど、いつまでも甘えてるわけにはいかないの」
「甘えられたいです」
耳元で囁かれ溶けそうになる。逃げようとすると後ろから抱きしめられてしまった。
「そういうのはちょっとやめて。し、しかもお風呂上がりってなんかっ」
「僕のことを思い出してくれました?」
「今は忙しくて考えている暇がない」
「寂しいな」
本当に悲しそうな声を出されたので私も切なくなってしまった。
「ごめんなさい。仕事に集中したくて」
「そうですよね。だからこそ、引っ越しは焦らなくてもいいのではないですか?」
「う……うん」
うまく言いくるめられた気がした。