隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
一緒に住ませてもらって気がつけば八月になっていた。
土日も私は家に仕事を持ち込むことが多かったけど、休みと仕事のメリハリをつけたほうがいいからと言って、様々な場所に連れ出された。
映画館、水族館、ドライブ、カラオケ、美術館。岩本君といると楽しくて私はいつも笑顔で過ごせていた。
アイディアに煮詰まってしまった土曜日。
岩本君は朝から私にパンケーキを焼いてくれた。
生クリームとはちみつをたっぷりとかけてくれ、めちゃくちゃ甘いパンケーキだったけど美味しくて、エネルギーが湧いてきた。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ」
食器も片付けてくれるので、私はその場でコンペのアイディアを練っていた。
「はぁ……」
「最近、ため息が多いですね」
キッチンから話しかけてくる。
「うん。期限が迫ってきたから焦る気持ちもあって……。今度のゲームって、対象年齢が定まってないというか。小さな子供も遊べるし、大人も遊べる。だからどこを狙って考えたらいいかわからなくて」
「難しい問題ですね」
岩本君も一緒になって考えてくれる。
「出かけてきませんか? いいアイディアが思いつくかも」
「そうだね。息抜きもしたいし」
動きやすいコットン生地のワンピースに着替えをする。軽くメイクをして髪の毛は一つにまとめた。
準備を終えると岩本君も着替えをしていた。シャツを羽織ってジーンズというシンプルな格好だが、雑誌から飛び出したモデルさんのようだった。
並んで歩くのが恥ずかしいと思ったけれど、せっかくの申し出だ。仕事を成功させるために協力してくれているのだから出かけることにした。
何箇所もゲームコーナーを回ったり、ゲームセンターを見に行ったりした。
「試しにクレーンゲームやってみましょうか?」
「学生時代以来、やったことないかも」
岩本君が小銭を入れて、ウサギのぬいぐるみを狙っていく。でも、簡単には取ることができない。
「難しいね」
「あともう一回だけやってみます」
クレーンがゆっくり動いていってボタンを押すと、ぬいぐるみが持ち上がった。そしてそのまま入り口に運んできたのだ。
ポトンと落ちて商品をゲットしたときには、思わずハイタッチをした。
仕事のことで、煮詰まって頭が重く、職場では私に対する悪い噂が広がって暗い気持ちでいたのに、全てを忘れて楽しい時間を過ごせていた。
岩本君が私のそばで支えてくれて、楽しませてくれているおかげなのかもしれない。
リフレッシュでき、周りにいる人たちのことを観察することができた。
私たちのように楽しそうにゲームをしている人がたくさんいる。
ゲームは人を笑顔にするんだ。
「このぬいぐるみ、僕だと思って大切にしてくださいね」
「ありがとう。でも一言一言、岩本くんの言葉は重すぎるよ」
「そうですか? それほど大切に思っているってことです」
歯の浮くようなセリフを言うから、私は思わず笑ってしまった。
ゲームセンターやゲームコーナーは、どこを見てもキラキラしていた。
激しい派手なデザインが多い中、あえてシンプルで攻めてみるのはどうだろうかと思ったのだ。逆に目を引くかもしれない。
「何か降ってきたかもしれない」
「本当ですか? よかった」
恋愛に傷ついて辛い思いをしていた私に寄り添って、仕事を応援してくれる大切な存在になりつつある。
「ありがとう」
「いえ」
「家に戻ってちょっと詰めてみる」
「はい」
意気揚々と歩いていると、岩本君がついてきていないことに気がつき振り返る。少しだけ離れたところにいて、まるで天使かと思うように優しい顔をして私のことを見ていた。
「友人との約束、果たせるといいですね」
「うん!」