隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて

 コンペの締め切りまで三日に迫っていた。
 もう少しでパッケージデザインの案ができそうだった。
 少し無理がたたっていたけれど、もうひと踏ん張りだ。
 パソコンに向かっていると、修一郎が近づいてきた。
 何か言われるのかもしれないと身構えていたら、珍しく優しい笑顔を向けてくれたのだ。
「いい案、浮かんだか?」
「お互いに頑張ろうな」
「……え? うん」
「ゲームのパッケージデザイン、もし採用されたらきっと一人前のデザイナーとして認められるだろうな。独立も夢じゃないかもしれない」
「私は独立したいわけじゃないけど……」
 大切な友達との約束があるから。修一郎にも過去に話したことがあったけど、きっと忘れてしまっただろう。
 そもそも私の話なんて真剣に聞いていなかったかもしれない。修一郎と話をしていると過去の嫌なことを思い出して、気持ちが暗くなってくる。自分の中でちゃんと消化しなければいけないと思った。そのタイミングで岩本君が戻ってきた。
「まだお二人共、残っていたんですね」
「どうしたの?」
「忘れ物をしました」
 机の引き出しを開けて「あった」と言う。
「ちょっとお腹空いたから、何か買ってこようかな」
 立ち上がると、岩本君が寄り添ってくる。
「荷物持ち係として僕もお供します」
「そんな、大丈夫だよ」
「熱心な新人だな」
 修一郎が感心した口調で言う。
「田辺さんは何かいりますか?」
「うーん、じゃあ、おにぎり、お願いしようかな。あ、ツナマヨで」
「了解です」
 なぜか私は岩本君と二人でコンビニに行くことになってしまった。
 エレベーターに乗るとこちらをずっと見つめてくる。
「な、なに?」
「随分仲よさそうに話してましたね。もしかしてまだ気持ちがあるんですか?」
「まさか」
「嫉妬しちゃうんですが」
「なにそれ」
 私が呆れたように笑うと、岩本君も笑顔を作った。
 エレベーターを降りたところで彼はハッとした表情をした。
「あ、もう一個、忘れ物があったので、先にコンビニに行っててください」
 再びエレベーターに舞い戻っていく。
「慌ただしい」と呟いた私の胸の中には、温かいものが広がっていた。
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