隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて

 岩本君の家に戻ると体の力が一気に抜ける。この家にあまり馴染んではいけないのに、岩本君が居心地のいい空間を作ってくれる。
「まずは、ご飯を食べてください」
 ささっと乾麺でうどんを作ってくれた。お出汁が美味しくて心がほっこりしてくる。
「美味しい」
「よかったです」
 お腹がいっぱいになって少し休憩した後、私たちは向かい合って座った。
「相野さん、コンペは予定通り提出されたほうがいいと思います」
「私が彼のアイディアを真似したと思われたら困るから、諦める」
「今回を逃すと次はいつチャンスが回ってくるかわかりません」
 真剣に言ってくれるけれど、かなり心が疲弊していた。
「退職を本気で考えてる」
「今会社を辞めてしまうと、夢を叶えることができないと思うんです」
「それはすごくわかるし途中で諦めるなんて悔しい。自分が考えた案を奪われることがこんなにも辛いなんて……。修一郎は私は会社にいる限り同じことを続けてくると思う」
「そうかもしれません。でも逃げないで戦いましょう。逃げてしまってもいいんですか?」
 岩本君の言葉にハッとさせられる。
「自分の作品を守りましょう? ご友人と約束したんですよね?」
 本当はこのままなかったことにしようかと思ったけれど、苦労して生み出したアイディアをあんな風に使われるのは絶対に許せない。
 それに岩本君が言ってくれた通り、このチャンスを逃してしまえば親友との約束が守れない。
 負けちゃ駄目だ。前を向いていかなきゃ。自分で自分を鼓舞していく。
 岩本君のおかげで深く沈んでいた心が浮き上がってくる気がした。
 恐怖心が強いけれど、明日出社したら課長に話をしてみよう。
「ありがとう。頑張ってみる」
「はい! 応援しています」
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